編集後記

2011 年 12 月 30 日


 本号の準備中に、同僚の小池澄夫氏が病没された。3月15日のことである。冬休み明けに登校されて「明日から入院・治療する」と突然おっしゃられたのだが、年度末の試験等の措置を話し合った後、「4月からは復帰する」と明言されていただけに、本当に急逝であった。改めて追悼させて頂くと共に、氏のご研究を記憶に留めておくために、また読者諸氏が氏の研究を受け継ぐことを容易にするためにも、氏と同じ古代哲学専攻の京大教授・中畑正志氏にご執筆頂いた「小池哲学」をテーマとした文章を掲載させて頂いた。
 本号は、言うとするなら「自由意志」論特集号として企画・準備していたものである。安彦稿は13.91号掲載稿の「続稿」となるものであるが、昨年の13.92号で公開したものをそのまま本号に転載した。斎藤稿は、氏のご専門領域からアプローチされたものであるが、邦語論稿としては一つの新しい切り口を提示したものでもある。この間、小池氏と共にときたまお茶を飲みながらこの話題で談笑していたところであった。小池氏にも ― swerveについては最初氏からお聞きしたところである ― 執筆を勧めていたが、昨年度末に、(担当者が容易に決まらないなか学部長の依頼を“義侠心”で引き受けられていた)二年間の「入試委員」の激務を了えられたばかりで、今回は氏の論稿掲載を断念していたところであったが、もはや「次回」がなくなってしまった。
 本号作成の具体的作業中、小池氏の遺品を整理中に「T 自由意志と決定論」というタイトルを付されたメモを発見した。全体で34ページに及ぶものであって、論文化した場合かなり本格的なものとなることを予想させるものである。哲学史的に、かなりの量の引用を記しつつ、「両立説」等の諸立場を要約することを基本とするものであるが、各所に氏ならではの鋭いコメントが付されている。ただ、「メモ」としてこの部分は残念がら記録としては未展開である。おそらく、さらに考察することを考えておられ、それが「論文」執筆に慎重であった原因であったのであろう。この点からも、氏の逝去は惜しまれるところである。
 この「メモ」の執筆時期は(今のところ)不明である。印刷されたものであって当然電子ファイルがあるはずであるが、氏が使われていたコンピュータにはパスワード設定がなされていて(今のところ)電子ファイルは確認できないでいる。「メモ」を発見した場所や紙の状態から少し前のものと推測されるが、数年前に、氏の指導学生の一人に、構成はこの「メモ」とはかなり異なるのだが、この種のテーマで書かれた卒業論文があった。この頃のものかもしれない。これは、当研究室の“スタイル”でもあるのだが、卒論(修論)は学生(院生)に自由にテーマを決めさせていて、特に熱心な者に対しては、専門領域とずれる場合は教員のほうも合せて勉強するというところがある。本誌10号収集の「2006年度卒業論文:前田麻澄 異類の存在論」も、そうした“共同研究”の一つである。
 安彦稿は、前稿に引き続いて、数年前の日本倫理学会大会で行われた「自由意志」をテーマとする「主題別討議」(司会:宇佐美公生氏)を強く意識したものである。今回は前稿とは違ってその提題者の近藤智彦氏の(諸)論稿にのみ関説したが、他のお二人の提題者(美濃正氏、柴田正良氏)の事後報告稿を含めて、昨年4月に入手した『倫理学年報』掲載三稿には ― その後、同じく宇佐美氏の司会のもとでお三人も含めて行なわれた、上記「討議」のアフター・セッションとも言える研究会で刺激を受けたところでもあるので ― いずれ改めて論究したいと考えている。(ご厚意が頂けるなら、三氏からのコメント稿を掲載したいとも考えている。)美濃氏とは(もうお一人と共に)、ずっと昔だが高知大学で開催された秋の関西哲学会大会の「自由」をテーマとしたシンポジウムで共同基調報告者を努めたことがあった。筆者はもっぱら社会哲学的な議論をしてあまり噛み合ったシンポにはならなかったと記憶しているが、その際、氏の立場に対して「柔らかい決定論云々」と言ってなんとか議論に合わせようとしたことが思い出される。当日は台風接近間近で ― しかも“本場”で ―(シンポは最終日最終プログラムであったが)ごく少数の「この際、本場で台風を見てみよう」という方を除いて帰りを急ぐ会員達でなんとなく浮き足立っていたことも思い出される。ちなみに小池氏は、そのときの「台風を見てから帰る」という方のお一人であった。
 本号公開の直前に所属学部の同窓会誌『会報』の今年度号(第62号)が公刊された。そこに収められた斎藤氏の「小池さんのこと」で、および定年退職教員が執筆することになっている安彦の「あと半年程……」でも、小池さんとの交遊の思い出を記させていただいた。併せて見て頂けたらありがたく思います。、 (安彦記)

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2011/12/30作成