湖心会会報 第24号 抜粋

目次


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平成10年度卒業論文

閲覧者の内容理解を促進するハイパーメディア教材の開発

金森栄美子

 清報化社会といわれる近年、学校教育におけるコンピュータの活用も社会の動向を反映して、大きく変わりつつある。それに伴い、最近ではハイパーメディアを利用した研究が、国内外で多くなされてきている。しかし、人間の知識構造に類似した構造をもつハイパーメディアを用いた教材を、その階層性と全体(透視)性に注目し、教材中のナビゲーションマップの効果に着目して開発した研究はこれまでにない。そこで本研究では、ハイパーメディアの階層性と全体(透視)性、教材中にナビゲーションマップを置くことの効果に注目し、閲覧者の内容理解をより促進するハイパーメディア教材の開発を行った。なお、本研究では、内容理解の促進に異なる効果を及ぼすと考えられる3種類のハイパーメディア教材の開発を行うこととした。

コーピングとコミュニケーション・メディアの関係に見られる発達的変化

倉井里佳

 本研究の目的は、メディア観とコーピングの関連が、発達段階の過程でどのように変化するかを調べることである。調査はメディア観の尺度を作成するための予備調査と、それを用いてメディア観とコーピングとの関連を発達的に検討する本調査の2段階で構成される。調査の結果、メディア観には年齢差と携帯電話の所持非所持が、コーピングには年齢差が関係していることが分かった。また、両者とも性別による違いも見られた。全体的に見て、大人になるにつれて、メディア観・コーピングともに変化し、両者の関連は認められたくたっていった。これは、成長するにつれて、メディア観・コーピングが成熟し、より客観的なメディア観を持ち、高度たコーピングを行えるようになったためではないか、と考えられる。

セルフ・モニタリング及び対人コンピテンスが自己開示に及ぼす効果

田中佐知

 本研究の目的は、セルフ・モニタリングと対人コンピテンスが、自己開示にどのような効果を及ぼすかを調べることであった。データは大学生(男子134名、女子210名)から収集された。被験者には自己開示質問紙とセルフ・モニタリング尺度、対人コンピテンス尺度に回答を求めた。結果から、因子得点のHI群・LOW群で見た場合、自己開示の「恋愛話」「否定的な話」をよくする人は人の微妙な表情に敏感でもあり、人や状況に合わせて行動できるということがわかった。「一般的な話」をよくする人は周囲の要求に応じて行動を調節したり、周囲の状況に合わせることができたり、どんな状況にも適した行動がとれるということが示された。「一般的な話」、「否定的な話」をよくする人ははっきりとした態度をとらたい人を苦手に感じていることも明らかとなった。しかし、相関と重回帰分析の結果からは自己開示のそれぞれの開示内容を説明するのにはあまりにも説明率が低くかった。よって、本研究からはセルフ・モニタリング及び対人コンピテンスが自己開示に効果を及ぼしていると断言することは困難であった。

幼児期の描画における色と形の発達的変化

釣 佐智子

 幼児の描画研究には線によってつくられる図形を年齢と関連づけたがら段階的に示してあるが、色づかいについての記述はみられない。そこで本研究では、対象物の形状表現と色づかいとの発達的関連を明らかにすることを目的とした。研究対象は3歳から5歳までの幼児の描いた描画で、3歳児43名、4歳児44名、5歳児60名、合計147名分を用いた。それらの絵を検討し、どのようた要因が描画における色づかいと形の発達に関係しているのかを明らかにするための評定の観点を決め、それに沿って全ての絵について評定を行った。年齢とのクロス集計表においてカイ二乗検定をおこなった結果、色づかいにおげる発達的特徴は、(1)典型色の使用、(2)3色以上の色を使っている、(3)色のぬり分け、の3つであることがわかった。また、色づかいと形における各項目についての年齢にともなう変化の傾向を比較したところ、形と色づかいに発達的関連がみられた。つまり、色づかいには年齢にともたって変化する特徴があり、それらは形の発達と対応するものであるということがいえる。

親の指示に対する子どもの不服従の発達的変化

星田理恵子

 本研究は、親の指示に対する子どもの不服従の発達的変化を明らかにするため、2歳児と4歳児を対象とし、家庭における自然な行動を観察することによって、親の指示と子どもの不服従についての子どもの年齢による差を、子どもの性別、親の性別による差とともに検討した。結果から明らかになったことは、親の指示については、子どもの年齢が上がるにつれて強制が減少すること、子どもの性別による有意差はたいこと、母親の方が非言語的命令、正当化、取引を使うこと、であり、子どもの反応については、子どもの年齢が上がるにつれて論理的議論が増加すること、子どもの性別、親の性別による有意差はないこと、であった。これらのことから、子どもは、年齢にともなって、断行的で社会的に熟練している形態を使うようになるということを考察した。

大学生における祉会的スキルとソーシャルサポートの関係

柳 千春

 本研究の目的は、社会的スキルとソーシャルサポートの関係について、社会的スキルの側面から明らかにすることであった。方法は、大学生(男子151名、女子225名)に、フェイスシート(性別・居住形態)、「社会的スキル尺度」、rソーシャルサポート」(友人・両親)からなる質問紙調査を実施した。その結果、社会的スキルとソーシャルサポートの各因子間の相関では、「対人のスキル」とソーシャルサポートの各因子の相関が高く、また、社会的スキルのHI群一LOW群別で見た場合にも、「対人のスキル」に優れている者ほどソーシャルサポートを多く受けているという結果が見られた。このことは、重回帰分析の結果からも支持された。以上から、ソーシャルサポートを規定する要因として、対人関係のスキルがあげられることが明らかとなった。

スポーツ習熟者にみられる自己効力の一般性

山本真紀

 本研究では、スポーツにおける自己効力が個人のより一般的な自己効力とどのように関係しているのかを検討するため、質問紙調査法を用い、運動部に所属する大学生339名(男子164名、女子175名)を対象に一般的自己効力、スポーツマン的自己効力、身体的自己効力の測定を行なった。その結果、身体的自己効力が高く認知されている者は一般的自己効力やスポーツマン的自己効力も同様に高い自己評価を行なっていた。つまり、スポーツという特定の場面において獲得された自己効力は、スポーツという対象を越え、日常生活における自己効力にも影響を及ぼしていることが明らかにされた。また自己効力は、運動頻度、競技の種類、経験年数、性別などによる影響を受けていることが分かった。以上、本研究より自己効力における一般性の次元の存在を肯定するような結果を得たが、今後は実際の遂行レベルでの調査も進める必要があるだろう。


平成10年度修士論文

性格特性・事象前のコンディション・事象後の対応がいじめ関連事象の評価に及ぼす効果

伊藤智子

 YG性格検査からの抜粋項目といじめられた経験を間う質問との組み合わせにより、いじめられる感じの感じやすさについての測定を試みた。調査1の結果よりYG性格検査の社会的適応性と情緒の安定性の検査項目といじめられる感じの感じやすさには、緩やかな正の相関がみられる。よって、いじめられる感じを感じやすい子ども達は、社会的な適応性が低く、情緒の安定性が低いといえる。このことを尺度として用いたいじめられる感じの感じやすさ(敏感さ)を要因とし、事象前コンディション、事象後の対応の場面設定による二つの要因を加えた三つの要因がいじめ関連事象の感情的印象の評価に及ぼす効果を調査したところ、いじめられる感じの感じやすさと事象後の対応については0.1%水準で有意な主効果がみられ、三つの要因に性別の要因を加えた4要因について5.6%の水準で交互作用に有意な傾向があることが認められた。いじめられる感じについての敏感さと事象後の対応がいじめ関連事象に対する感情的印象の評価に影響する要因であることが示された。いじめられる感じを感じやすい子に良いコンディションと良い対応を設定した場合のいじめ関連事象に対する感情的印象の評価は、いじめられる感じを感じにくい子に悪いコンディションと悪い対応を設定した場合の感情的印象の評価よりも高く(ポジティブに)なることが実証された。いじめに関する感じやすさよりも事象後の対応の影響が大きくいじめ関連事象の感情的印象の評価に影響することが明らかにされた。このことより、個人の持っている性格特性よりも、事象に対する対応という後からの働きかけが事象の判断に大きく影響することが示されている。よって、いじめられる側がいじめであると判断する事象が起こった時に、その対応が事象のその後の判断に影響を与えるということになる。本研究は、教育の現場での指導に科学的に示唆を与え得るものであると考える。

シャイネスが自己開示に及ぼす影響 −社会的スキルを媒介として−

松島るみ

 本研究では、個人の特性であるシャイネス(特性シャイネス)の高い者は、自らの対人場面における緊張感や非親和的特性等から人と接する機会が減少し、対人関係の学習の不足をもたらし、それが結果的に社会的スキルの欠如に結びつき、自己開示の少なさにつながるという関係を予想し、実証的に検討することを目的とした。調査は大学生と専門学校生443名に特性シャイネス尺度(相川,1991)、自己開示質問紙(榎本,1997)、社会的スキル尺度(菊池,1988)が実施された。尺度間の相関係数を求めたところ、シャイネスと社会的スキルには高い負の相関(γ=−.714,ρ<.01)が、シャイネスと自己開示には中程度の負の相関(γ=−.367,ρ<.01)が、また社会的スキルと自己開示には正の相関(γ=.325,ρ<.01)が見られた。本研究では、シャイネスが社会的スキルや自己開示に及ぼす影響に関して、重回帰分析を繰り返し行うことにより、パス係数を求め、シャイネスと社会的スキルの関連が自己開示に及ぼす影響を検討した。その結果、シャイネス→自己開示という直接的な効果に比べて社会的スキルの対人積極性、他者理解を経由するシャイネス→社会的スキル→自己開示の間接的た効果の影響が強く、自己開示には対人積極性スキル、他者理解スキルに依存しているといえる。つまりシャイネスの高い者の自己開示を促すためには社会的スキル、特に対人積極性、他者理解という自らの自己開示による周りの影響や反応を考えたり、人とうまく接するというスキルの獲得が大切であると思われる。


事務局・教室だより
○ 3月には学部、大学院あわせて10名の諸氏が卒業しました。
  また4月には学校心理学専修に14名の入学者を得ました。

○ 平成10年度に提出された卒業論文、心理学関連修士論文として、掲載分の他に以下のものがありました。

卒業論文
 ・岡田匡弘 発達段階の異なるマウスのオープンフィールド行動に及ぼすMK-801の投与効果
 ・浜井一史 大学生の就職活動における自己効力とソーシャルサポートとの関係
修士論文
 ・田中克子 登校拒否児の親の意識に関する一考察 −その変容過程を中心に−
 ・登尾泉美 科学的概念の獲得に関する研究 −問題解決過程の有無及びメタ認知方略の影響−
 ・山本聖子 幼児期の「学び」と母親の課題 −「モンテッソーリの発見」を手がかりに−

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