びわ湖の湖底高濁度層

 近年,びわ湖(琵琶湖)北湖の湖底付近に相対的に濁っている層(湖底高濁度層)が存在することが 様々な観測によって確認されています。また,富栄養化のメカニズムを解明するためにも,湖底高濁度層の物理的・化学的過程の重要性が指摘されています。しかし,まだよくわかっていないところが多く,私達は,TCTプロファイラを用いた観測や,採水によって得られた懸濁物質の化学分析の結果から,琵琶湖の湖底高濁度層の実態を明らかにし,その成因や形成・変動機構について研究をしました。

 下図は1995年8月29日に観測した近江舞子沖(水深75m)での水温・濁度・クロロフィルaの鉛直分布図です。この時期,深さ10m付近に顕著な水温躍層がみられ,濁度は水温躍層より上層に比較的高くなっています。クロロフィルaは,水温躍層付近に非常に 高い値が見られますが,これは植物プランクトンを捉えたものです。湖底付近では,濁度もクロロフィルaも高く,分解過程の植物プランクトンを含んだ湖底高濁度層が形成されていることがわかります。

 懸濁物質(SS)中の化学元素の季節変化を見ると,湖底において陸起源のアルミニウムイオンはSS濃度と同じような変動を示します。これらは降雨ごとに増加しますが,その値はすぐに低下します。一方,湖内起源のリンの濃度は降雨ごとに増加し,10月以降も大きく減少することはなく,安定して存在しています。マンガンは水温成層期にも湖底で増加していますが,最大となったのは1月でした。これは湖底での貧酸素状態がこの時期まで保存され,底泥中のMnの溶出による酸化凝集化がおこったためです。

 以上から,湖底高濁度層の大きな変動は 河川等からの土壌起源物質によるものですが,ベースとなる濁りは分解過程にある植物プランクトン等の有機物であり,夏季から成層末期までは,マンガンの化学変化による濁りの生成も大きな要因となることがわかりました。


(詳しい内容は、「びわ湖における湖底高濁度層の季節変化」、 鷺 邦彦、遠藤修一、川嶋宗継、奥村康昭、服部達明、中山聖子,陸水学雑誌、58-1(1997)、p.27-44に発表しました。)
 


びわ湖に流入する河川水のゆくえ


 私たちが1997年に行なった調査は,湖上と湖岸での風の同時観測と,野洲川沖での水温・濁度・電導度・クロロフィルなどの観測で,ともに大阪電通大の奥村研究室との共同観測です。野洲川沖の調査は毎月一回のルーチン観測に加え,大雨後にも実施してきました。調査の主なねらいは,びわ湖集水域で最大の流域面積を持つ野洲川の水が,どのようにびわ湖に入り,その後どこへ行くのかを捉えることです。そのために,水質の観測だけでなく,6台の流速計を設置して,湖流の連続観測も行いました。データは解析途上ですが,いくつかの興味深い結果が得られつつあります。

 海に注ぐ河川水は海水よりも密度が小さいので常に海洋の表層に流入しますが,湖沼では河川水も湖水も淡水ですから,河川水と湖水の温度の違いによって流入するパターンが大きく異なってきます。たとえば,河川水の方が湖水よりも高温であれば湖面付近に拡がり,逆に河川水の方が低温であれば湖底に潜ってしまいます。1年間の観測結果をみると,春には河川水のほうが高温になり湖面に拡がることが多いようです。ただし,夜間には水温差が逆転して湖底に潜る場合もあります。夏から秋にかけてびわ湖水は成層しますが,この季節の河川水温はびわ湖の表層水温よりは低く深層水温より高いので水温躍層の中に貫入します。冬には河川水の方が低温なことが多く,河口付近で潜り湖底に沿って流入するようです。

 私は本学の全学共通教養科目「近江とびわ湖」という授業で,びわ湖の水の入れ替わりについて講義をしています。「トコロテン方式」という考え方は,河川水がびわ湖水を押し出してゆくというもので,「完全混合方式」は河川水と湖水が完全に混合し,混合水がびわ湖から出てゆくという考え方です。「トコロテン方式」なら約5年で水は入れ替わり,「完全混合方式」ではいつまで経っても湖水は入れ替わらないことになります。

 野洲川で観測された河川水の流入パターンからみると,春には河川水が表層に流入するので,そのままびわ湖から出てゆくことになり,これでは水はほとんど入れ替わらないことになります。夏から秋にかけて河川水は水温躍層に流入するので,これは「トコロテン方式」に近いものでしょう。冬には河川水が湖底に潜るというものの,冷却や強風による鉛直混合が盛んですから,「完全混合方式」に近いと考えられます。

 かなり荒っぽい議論ですが,季節によって河川水の流入パターンが大きく違うことは,水の入れ替わりだけでなく,びわ湖の生態系や水質形成に深く関わっているものと思われます。びわ湖に流入する河川は野洲川だけではありませんが,びわ湖に大きな影響を及ぼすと思われるこの大河にしばらくは焦点を当てて河川水のゆくえを追跡してみようと思っています。



この内容の一部については,「野洲川河川水の分散」, 遠藤修一,奥村康昭,川嶋宗継,福山直憲,大西祐子,中村直子,馬場礼子,田中聡子, 陸水学雑誌、68巻1号, 15-27頁, 2007,に発表しました。


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