高解像度航空写真画像を用いた野外観察の利点
・サンゴ礁の水の透明度は高いため、複雑な地形が航空写真画像に鮮明に反映される。(地上解像度8cmの画像が入手可能)
・この画像を防水処理して調査用の地図として用いると、住宅地図のように生物個体がどこに住んでいるのか、手にとるようにわかる。
・適当なリーフを選び、その場所の画像を用いれば、種間縄張りの観察が個体レベルで可能である(see Hattori and Shibuno 2013)。
・岩礁や海草群落の総面積は、複数の基準点間の実測距離がわかれば、画像ソフトによって計測可能。
・生息地の境界線が不明瞭な場合でも、画像ソフトのポスタリゼーション機能を用いると単純化が可能(see Hattori and Kobayashi
2009)
・各パッチの面積や高さ、サンゴ群落の被度などと実際の生息種数や個体数のデータを関連づけることができる(see Hattori and Shibuno
2015)。
・画像解析によって生息種数の多いスポットを予測できる(Hattori and Kobayashi 2007, 2009; Hattori and
Shibuno 2010, 2013, 2015)。
総面積が同じなら、大リーフと小リーフ群のどちらで生息種数や個体数が多くなるのか?
・このSLOSS問題(the Single Large Or Several Small issue)には、メタ個体群や種数面積関係などの重要な問題が関わっている。
・Fahrig(2013)は、移動分散力の低い種を除けば、総面積のみが重要であり、大生息地と小生息地群の間に差はないと結論づけた。
・サンゴ礁の魚類などの移動分散力が高い種では、パッチ状に分割された生息地が多種共存を促進するため、生息種数や個体数が多くなると言われている。
・もし、総面積が同じでも、小リーフ群の方で生息種数や個体数が多くなるであれば、そのような生息場所を保全地区として優先すべきである。
・高解像度航空写真画像を用いて画像診断のようにパッチのサイズ分布や散らばりを調べ、生息種数や個体数の多い場所を予測できるのではないか。
・これまでの研究で明らかになったこと:
HATTORI & KOBAYASHI (2007) Configuration of small patch reefs and population abundance of a resident
reef fish in a complex coral reef landscape. Ecol Res 22: 575-581.
航空写真画像を用い、ハマクマノミと本種が共生するタマイタダキイソギンチャクを対象にし、生息個体数に及ぼすパッチリーフの面積や周辺長などについて相関分析を行った。この結果、単純な暗褐色の色彩とタマイタダキイソギンチャクの個体数が相関しており、サンゴ礁の航空写真画像を用いた海洋生物の生息地分析が有効であることが示された。サンゴ礁地形は非常に複雑であり、ハマクマノミの生息密度は低いため、これまでは比較的く狭い範囲でしか詳細な生態観察はできなかった。この論文により、約3ヘクタールの範囲にわたり、生息状況を精査でき、生息地と個体数の関係を明らかにできるようになった。
HATTORI & KOBAYASHI (2009) Incorporating fine-scale seascape composition in an assessment of habitat
quality for the giant sea anemone Stichodactyla gigantea in a coral reef
shore zone. Ecol Res 24: 415-422.
水深1m程度までの潮下帯を撮影した航空写真画像を用い、カクレクマノミと本種が共生するハタゴイソギンチャクを対象に、生息個体数と画像上の様々な色彩との相関分析を行った。サンゴ礁の水深1m程度までの潮下帯では、これまで観察者の場所の特定が困難であったために、潜水観察による魚類の生態学的研究は非常に狭い範囲(数十メートル程度)に限られていた。さらに、このような場所では、藻場や砂地、岩場などの生息地が多様であり、それらの境界線が不明瞭であるため面積の計測が困難であった。この論文では、画像解析ソフトのポスタリゼーション機能を用いることによって単純化を行い、単純化された色彩の面積と生息個体数の関係を探ることができた。その結果、ハタゴイソギンチャクの生息場所には2種類(岩礁と海草藻場の周辺の浅い砂地)あり、前者には個体数は少ないが大型個体ガ多く、後者には個体数が多いが小型個体が多く、消失個体が多いことがわかった。ハタゴイソギンチャクの保全には、2種類の生息場所が混じり、かつ岩礁の多いことが重要であることが初めて明らかになった。
HATTORI & SHIBUNO (2010) The effect of patch reef size on fish species richness in a shallow coral
reef shore zone where territorial herbivores are abundant. Ecol Res 25:457-468.
高解像度航空写真画像を使用した生息地の抽出と生息個体数の関係を調べる手法を確立できたため、「総面積が同じなら、大リーフと小リーフ群のどちらにおいて、より多くの生息種数や個体数が見られるのか?」について調べられるようになった。そこで、クマノミ類も含むスズメダイ科魚類全種に対象種を広げ、生息種数とリーフ面積の関係を調べた。その結果、種数面積関係は片対数(種数=a*
log面積+bの形)で表現できることがわかった。さらに、ランダム置換(定着)モデルを使ったコンピュータシミュレーションを行った結果、ランダム定着で期待されるほどの生息種数は大面積リーフでは見られないことが明らかになった。各種の個体数のデータから、大リーフでは縄張り性藻類食魚(スズメダイモドキ、クロソラスズメダイ、ハナナガスズメダイ)が多く、このような競争優位種の存在により他種の生息種数が制限されているものと考えられた。
HATTORI & SHIBUNO(2015) Total volume of 3D small patch reefs reflected in aerial photographs can
predict total species richness of coral reef damselfish assemblages on
a shallow back reef. Ecol Res 30: 675-682
リーフの総面積が同じなら、大リーフよりも小リーフ群の方で多くのスズメダイ科魚類の種を生息させることができることがわかったが、Hattori
and Shibuno 2010, 2013, 2015により、このことには「リーフの立体的な形状」が深くかかわり、浅い場所であることが関係していることが示されてきた。このため、各リーフの高さを実地で計測することにより、「リーフ面積×高さ」と生息種数の関係を解析した。その結果、リーフ底面積×高さをリーフ体積とすれば、スズメダイ科魚類の生息種数は、回帰曲線を用いることにより、総リーフ体積で予測可能であることが示された。リーフ体積は本当の意味ではリーフの体積ではないが、リーフの中や周辺の生息空間を近似しているものと考えられた。この指標により、サンゴ礁魚類の生息種数の多い場所を航空写真画像の画像解析によって予測できる可能性が示された。
HATTORI(2017) Aerial images can detect 3D small patch reefs that are potential habitats
for anemonefish Amphiprion frenatus. Ecol Res 32: 943–949.
高解像度航空写真画像を用いた野外観察の方法
Hattori and Kobayashi (2007)のFig.1(左図)を例に説明する。
a) 石垣島のサンゴ礁(白保海岸)の航空写真画像
b) aの黒枠の拡大図とタマイタダキイソギンチャクの分布を示す(赤点)
c) 画像解析ソフトを用いて特定の色彩(暗褐色)を抽出後、赤く着色した
1)国土地理院などで発売されている高解像度航空写真画像を用意する。
2)高解像度航空写真画像の一部を拡大して印刷し、防水処理を施したものをフィールド用の地図として利用する。この地図に、実際の対象生物の分布を個体毎にプロットする。
3)画像に反映される岩礁等の色彩を画像解析ソフトを用いてパソコン上で抽出し、区画毎に面積を計算する。この例では暗褐色に注目した。
4)実際の対象生物の個体数と特定の色彩の面積の相関分析を行い、高い相関係数を示す景観要素を明らかにする。
5)野外観察により、相関の高い景観要素が生態学的にどのような意味があるのかを考察する。この例では、暗褐色は岩礁と海草群落と対応していたが、海草群落にイソギンチャクは存在しなかった。海草群落は別の手法を用いれば特定できるので、その面積を除くことは可能である。
6)航空写真画像の色彩から対象とする生物の個体数が多い場所を特定できるようになる。