岩上研究室へようこそ 本文へジャンプ
私の授業紹介

【学部】


○英文学関係の授業では・・・

 イギリスの小説を原文で読む! これは学部生にとっては大変なことですが、2年次の演習で短篇を読んで足ならしをして、3年次ゼミで長篇小説に本格挑戦します。たとえば映画『第3の男』の原作者として知られるG.グリーンの場合なら、まず「橋の向こう」「落ちた偶像」を読んでグリーンの作品に必ず現れる<境界>のテーマに触れます。次に長編小説の『権力と栄光』や『事件の核心』などを読んで、主人公たちがいったい何の境界を越えたのか、それを越えたことが彼の生き方にどんな意味をもったのかなどを考えます。

翻訳ではさらりと読み飛ばしてしまったことが、時間をかけて原文で読んでみると気がつくことがいっぱいあります。たとえば shabby という語はグリーンが好んで使う語です。これは「(建物や衣服などが)古びた、みすぼらしい」という意味がありますが、英々辞典 Oxford Advanced Learner's Dictionary によると (of behavior) unfair or unreasonable という意味もあります。unfair あるいは unreasonable の判断の基軸は、社会の道徳や常識といった制度的なものではなく、グリーンの中にある倫理基軸に照らしていると考えられます。ここで彼の本質につながる可能性のあるキー・ワードに出会えたのは、やはり苦労しながら原文を読んだことのご褒美と言えるでしょう。特急よりも各駅列車の旅の方が、いろんな風景が見えるのと同じです。

○翻訳関係の授業では・・・

 Mr and Mrs Dursley, of number four, Privet Drive, were proud to say that they were perfectly normal, thank you very much. おなじみ『ハリー・ポッターと賢者の石』の冒頭の文です。ダーズレイ夫妻、住所はプリベット通り4番地。privet というのは「イボタの木」でイギリス南部では生け垣によく使われます。日本でいえば「マサキ」「ツゲ」といったところでしょうか。drive は収入のある中産階級の人たちが住む新興住宅地などにつけられた道路のイメージです。ですからダーズレイ夫妻はそれなりに自分たちの社会的地位に自負があるわけです。ところが、冒頭の文はこの自負に胡散臭いところがあることを表しているのです。

そんなことがわかるのかって? はい、perfectly thank you very much という表現が鍵です。この二つ、じつは、否定的な意味合いの表現なのです。(続きを読む)

【大学院では】

楽しみながら読むというのが大原則。ただし、学部と違うのは読んで面白かっただけではなくて、テクストを批評的に読むという高度な楽しみを追求します。そのためには理論が必要です。ちょうど車のエンジンを分解するにはそれなりの道具が要るのと同じように、テクストを分析するためにはそれを記述するために適切な用語や方法論が必要になります。でもあくまでも道具は使ってこその道具。道具のための道具ではありません。具体的な作品を読みながら、道具の切れ味を確かめて職人気分を味わいます。(続きを読む)