探し物はどこに

【認知症患者ら向けシステム/滋賀大の研究グループ開発】 
   朝日新聞 朝刊(滋賀版) 2010年01月22日


 目当ての人はどこにいるのか、探し物はどこにあるのか――。介護が必要な高齢者や脳卒中、認知症などの患者が苦手とされる、3次元空間でのモノのありかを把握する能力鍛錬システムを、滋賀大教育学部(大津市)の研究グループが開発した。草津市のゲームソフトメーカーが昨年末に商品化し、老人施設や病院などのリハビリ現場に近く導入される見込みだ。(安田琢典)


【かくれんぼ応用、ゲーム仕立て】

 システムを開発したのは、渡部雅之教授(発達心理学)や愛媛県今治市の脳外科医らのグループ。2005年に研究に着手し、昨年12月に商品化された。

 子ども遊びの「かくれんぼ」を応用したテレビゲームに仕立て、画像に映し出された家屋の複数の窓のうち、1カ所から子どもが現れ、隠れる。画像は切り替わり、先の家屋が視点を変えた異なる角度で現れ、子どもがどこの窓に隠れているのかを当てる。利用者は、発信器を取り付けた手のひらを動かして画面上のカーソルを操作し、目当ての窓を示す。

 画像は2次元だが、脳内では3次元をイメージできるよう工夫している。画面上の家屋は45〜135度の範囲で傾いたり、ひっくり返ったりする。画像が切り替わるごとに窓の位置がずれ、頭の中で視点を回しながら空間を把握する力が求められる。

 「どの空間に対象物があるかを瞬時に把握するには相応の集中力が必要とされる」と、渡部教授。自分の手を動かしてカーソルの動きを指示することから意思と運動の連携も求められ、脳機能の訓練にもつながるという。

 渡部教授が60歳以上の高齢者や大学生、患者ら200人以上を対象にこのシステムを使って調べたところ、高齢者と大学生の正答率はほぼ100%、回答に至る時間は平均1.8秒だった。ところが、脳卒中や認知症の初期段階や回復途上の患者の場合、正答率は75%前後に落ち、回答時間も2秒を超えるケースが目立った。

 渡部教授は「リハビリの分野だけでなく、疾患を早期に発見するのにも使える汎用性の高いシステム」と話している。