楽しみながら取り組む 認知症の早期発見・予防ツール続々登場

   産経新聞 朝刊 2011年08月29日


 高齢化の進行で、年々増加する認知症。厚生労働省によると、「日常生活に支障をきたす」と要介護認定された、認知症とみられる高齢者は推定208万人以上にのぼっている。それに伴い、予防や早期発見に対する意識も高まっており、従来の運動やレクリエーションのほか、ゲームソフトや教材などが続々と登場。楽しみながら取り組めるツールに人気が集まっている。(田野陽子)

 ◆“かくれんぼ” 堺市南区にある通所施設「パナソニックエイジフリーにわしろデイセンター」。十数人のお年寄りがテレビ画面をのぞきこみ、時折、歓声を上げる。

 画面に大きく映るのは、4つの窓のある家の絵。そこに子供が現れて、1つの窓の内側に隠れる。次に、家が90度、180度などくるりと回転。子供が隠れた窓がどこだったかを当てる、というゲームだ。

 参加者は、手のひらに専用バンドをはめており、正解だと思った窓にバンドを向ける。「こっちかな」「いや、こっちでしょう」と悩みながら腕を振る動作に、本人も周囲の人たちも思わず笑顔に。画面に「正解」の文字が出ると拍手が沸き起こる。

 「くるくるかくれんぼ」と名付けられたこのゲームソフト。滋賀大学教育学部の渡部雅之教授(発達心理学)らのグループが平成17年から研究に取り組み、滋賀県草津市内の企業と共同で一昨年に製品化した。

 ゲームで問われるのは、記憶力のほか、頭の中でイメージを回転させて空間的にとらえる力。大学生から高齢者まで200人以上にこのゲームに挑戦してもらったところ、認知症の初期や脳卒中の後遺症から回復途上の患者の場合、正答率は75%前後と低く、回答するまでの時間もやや長い、という結果が出たという。渡部教授は「堅苦しい検査ではなく、遊び感覚で取り組みながら、早期発見の一助となるのでは」と話す。

 既に多くの高齢者施設で導入されており、同施設では昨年秋から導入した。60代の男性は「家の絵がコロコロ動くので難しいけれど、おもしろい。認知症は心配ですが、まだまだ私の場合、大丈夫そう」と笑顔を見せる。東川智子所長は「認知症だけでなく、集中力や精神状態を観察でき、ほかの疾患の可能性も探ることができます」と期待している。