滋賀大学教育学部心理学教室平成22年度卒業論文集への寄稿より

「なぜ学ぶのか」

     渡部 雅之

 センター試験も終わり、今頃は一般入試に向けて多くの受験生が、最後の追い込みをしていることでしょう。皆さんもそうした努力が実って、晴れて滋賀大生になったのでした。そして、この大学での4年間にも、時には泣きそうになりながらも、一生懸命学んでこられたことと思います。こうした皆さん自身のがんばりの成果として、多くの知識や教養、あるいは思考力や問題解決能力を身につけることができたはずです。
 では、皆さんは何のために学んできたのでしょうか。多くの方は、希望の大学に進学し、望む職に就くためだったのかもしれません。あるいは心理学という学問そのものに惹かれ、好奇心を満たすためにという人もいるでしょう。(ただ何となく…というモラトリアムは卒業したことを祈ります)
 いずれにせよ、皆さんの学びは、皆さん自身の人生を豊かに −経済的、精神的、対人的に− するためにあります。さあ、準備は整いました。これから始まる社会生活での苦労を進んで引き受けることのできる、納得した進路選択をして下さい。モンスター(問題)を倒す(解決する)ために必要な基本アイテム(スキル)は、すでに持っています。そして、敵を倒した後には、新たなアイテムをゲットできるでしょう。こうしていつの日か、今はまだ遠いあなたの人生の目標をクリアされることを願います。
 それと同時に、次の数字も忘れないで下さい。皆さんが滋賀大学での学びに使ったお金です。大学に払った授業料等は、4年間で総額250万円ほどになります。それを自分で工面した感心な方もいらっしゃるでしょうが、多くは親の援助に頼ってきましたね。その間、国からも一人当たり400万円以上の税金が皆さんの教育のためにつぎ込まれていたのをご存じでしたか。さらには、返済義務のない奨学金をもらっていた方もいるでしょう。これらの数字は、国立大学で学んだ皆さんに、親や社会が大きな期待をかけている証拠です。
 だからと言って、その意に添うように生きよというわけではありません。しかし、親や社会が皆さんに与えてくれたことは、どうか忘れないでいて下さい。次は皆さんが、社会人として恩返しをする番だからです。これからどのような道に進まれるにせよ、皆さんの価値を社会に還元することは大切なことです。
 経済的困難や不平等に文句を言い、不運を嘆く前に、あなた自身がその世界の一員であることを思い出して下さい。そして、たとえ影響は小さくとも、あなたが投げかけた波紋は決して消えることがないということも。理想的な社会を実現するために、特効薬などありません。皆が各自の持ち場で精一杯に生きることこそが、結局私たちの社会を良くしていくのです。
 大学での学びが、あなた自身の自己実現を助けてくれると同時に、世の中を改善していく、小さくとも確かな一歩になることを切に願っています。