滋賀大学教育学部心理学教室平成25年度卒業論文集への寄稿より

「あなたの中の神さま」

     渡部雅之

 友人にはすてきな恋人がいるのに私にはいない、あの人は希望大学に合格したのに私は不合格だった… 世の中はうまくいかないことが多いですね。
 そんな時は、「どうして私だけが嫌な目に遭うの!」と神さまに文句の一つも言いたくなります。今年度の納会では、その神さまの話しをしましたね。日頃から信じるにせよ信じないにせよ、困ったときや苦しいときに、まさに「神頼み」したくなるのは我々弱い人間の性なのでしょう。
 では、あなたの神さまは、どんなふうに答えを授けてくれますか。ある神さまは、「おまえは○○すべきである」と強く導いてくれるかもしれません。一方、「人生なるようにしかならないものだ」と投げやりにしか答えてくれない神さまもいらっしゃるかもしれません。しかし、怪しげな宗教の生き神さまでもない限り、あるいは本当の奇跡でも起きない限り、神さまが人の声であなたに話しかけてくることなどないのですから、いずれの声も本当はあなた自身の思いが現れたものであるということは至極当然です。たとえそれが他の者の口から語られようとも、「なるほどそうだ」とあなたが納得できるのであれば、その答えは最初からあなたの中にあったのです。
 一般的に、人は曖昧な状況下で判断を求められた時、日頃から使い慣れた思考パターンに頼ろうする傾向があることを、心理学研究は明らかにしてきました。それを応用したよい例の一つが、投影法性格検査です。何にでも見える、あるいは何にも見えないはずの曖昧な図形も、あなたにとってはある決まった何かにしか見えないはずです。まさに答えはあなたの中にだけ存在し、それこそがあなたという人物の個性を表しているのだと解釈されます。このように、あなたの神さまは、実はあなた自身の中に最初からいらっしゃったのです。
 では、もう一度問います。あなたの中の神さまは、あなたにいつもどのように答えてくれますか。あなたをどんなふうに励ましてくれるでしょうか。これらの問いへの答えは、あなたという人間が、どういう生き方をしようとしているのか、何を大切だと思っているのかを意味しています。大学教員としての私たちは、専門知識を教えることはできますが、最適な神さまをプレゼントしてあげることなどは到底できません。それは、人生経験という苦しい修行を経て、あなた自身で見つけ出していくべきものなのですから。
 すてきな神さまに出会い、その声に導かれて魅力的な大人に成長したあなたといつか再会できる日が来ることを、心から楽しみにしています。