滋賀大学教育学部心理学教室平成30年度卒業論文集への寄稿より

「折り紙」

     渡部雅之

 平成の時代が終わります。巷は平成最後のイベントで盛り上がりをみせています。さしずめ皆さんは平成最後の心理学教室卒業生ですね。めでたいような、めでたくないような‥。いずれにしても、1つの区切りが訪れようとしているのは確かで、学校心理専攻も4月からは教育心理実践専攻に変わります。平成2年から始まり、皆さんを悩ませた大学入試センター試験も、来年度の実施が最後で、大学入学共通テストに変わります。時代は着実に変わりつつあります。
 こうした私たちの人生を、いくつかの折り目がついた1枚の紙に喩えてみましょう。折り目を超えるたびに、人は次の段階に進み、新しい世界に出会い、ひとまわり大きな自分に成長していきます。皆さんもこれまでいくつもの折り目を超えて成長してきました。そして今、大学卒業という折り目にさしかかっています。それは、大学生活に終わりを告げると同時に、社会人という魅力的な大海を予感させてくれているはずです。折り目の向こうに広がるそれぞれの輝かしい未来が楽しみです。
 折り目はどちらか一方の側にだけ属するものではありません。何かの終わりは、別の何かの始まりだからです。折り目は、段階を分ける境界であるのと同時に、両者を繋ぐ絆でもあります。さらに、折り目をつけることで初めて、領域の違いが生まれます。すなわち、折り目は通過点であると同時に、領域を生み出す契機となっています。これは、光と影、図と地の対比に似ていませんか。光の差すところには必ず影が生まれ、図が置かれることで地が意識されます。また、他者がいてこそあなたが存在します。自分を知りたいと思うならば、周りの人々を深く理解するように努力してみましょう。あなたと他者の間の折り目を意識することで、両者の個性がさらにはっきりしてくるはずです。
 そして、折り目にはもう1つの大きな働きがあります。平面を何度か折り上げることで、思いもよらない複雑な立体を作ることができます。そう、子ども時代に誰もが楽しんだ折り紙です。折り紙を上手に折るコツは、折り目をしっかりつけることだと言われます。私たちは、一人ひとりが違う「人生の折り紙」を折りつつ生きています。ですから、きれいな折り紙を完成させたければ、ひとつひとつの折り目に細心の注意を払いましょう。どんなふうな折り目をつけるのかで、あなたの人生の折り紙の出来は変わってきます。
 皆さんの折り上げる人生の折り紙が、隅々まで心配りされた美しい姿でありますように、心から祈っています。いつの日か、あなたという折り紙を見せに、大学を再訪してくれることを楽しみに待っています。