滋賀大学教育学部心理学教室令和3年度卒業生へ

「楽しむ者となるために」

     渡部雅之

 仲間と過ごす濃密な時間、憧れていた(?)心理学研究、皆さんが楽しみにしていたこの2年間が、コロナウィルスのせいで大きな打撃を受けました。同情します。そんな今年の卒業生に、孔子のこの言葉を贈ります。

 知之者 不如好之者 好之者 不如楽之者
(之を知る者は、之を好む者に如かず。之を好む者は、之を楽しむ者に如かず。)
 「知っているだけの者は、好きな人間には及ばない。好きな者は、楽しんでいる者に及ばない。」

 皆さんは、滋賀大学教育学部に入学して教員免許状を取得するための勉強をし、学校心理専攻を選択して心理学を学びました。4月からは教壇に立つこともできますし、人の行動の意味を多少は分析してみせることもできるでしょう。しかし、これはまだ知之者の段階です。世の中に教員免許状を持つ者や心理学を学んだ者、つまり知る者は多いでしょうが、その中のどれだけが本当に「教えることが好きだ」、「人の心について考えることが好き」と思っているのでしょうか。教育学部を卒業した全ての人が教職に就くわけではないことや、たとえ教員になったとしても、その理由が教えることが好きだからではない人も一定数いるはずです。好之者は限られます。
 さらに楽之者となるとどうでしょう。好きなことを仕事にしたという話しはよく耳にしますが、仕事を楽しいと思える人は世の中にどのくらいいると思いますか。2021年の話題を独り占めした感のあるエンゼルスの大谷翔平選手が、インタビューに答えてこんな風に言っています。

(記者)「野球少年に1つ大切なことを伝えるとしたら?」
(大谷選手)「楽しくやることじゃないですか。…純粋に楽しむこと。どんどんのめり込んでいく上では大事かなと思います。」
(記者)「今の野球の楽しみは?」
(大谷選手)「練習で今日は良い感覚がつかめたなと思えるのも楽しいし、日本一になった時みたいに、自分で設定した大きい目標をクリアした時の楽しさもあります。いろんな楽しさがいっぱいある中で毎日やれているのは、凄く幸せなことだなと思います。」

 これは、大谷選手のような成功者だから言えるのではありません。自分の仕事を楽しむことや、自分の人生を楽しむことは、誰にだってできることです。私たちは、思い描いていたような生活でなかったり、満足のいく成果を上げられなかったりすると、「楽しくない」とつい不満をこぼしがちです。しかし、理想的なキャンパスライフを送ることができなかったからといって、皆さんの大学生活が全てつまらなかったわけではないはずです。コロナ渦の毎日でもたくさん楽しみを見つけられたのなら、それはとても幸せなことです。
 さらに言えば、どこかにある楽しみを見つけ出すのではなく、自分自身で作り出すことが大切です。それができさえすれば、どんな仕事であっても嫌になることはありません。皆さんが楽之者となって、大谷選手のように「凄く幸せな」人生を送ることを心より祈っています。