滋賀大学教育学部心理学教室平成9年度卒業論文集への寄稿より


「そうぞうりょく」

     渡部 雅之

 今年度はとても忙しい年でした。この文章も、オリンピックでの日本選手の活躍を報じるテレビを横目で見ながら、夜中に書いています。これほど多忙になってくると、自分自身でも何かにつけ心に余裕がなくなってくるのを感じます。最近、特にマスメディアを通して、今の子どもたちがすぐに"キレ"てしまうことが騒がれていますが、彼らも同様に、物理的(中学生の自由時間はすでにサラリーマンのそれと同程度しかないそうです)に、そしてなによりも精神的にゆとりがなくなってきているということなのでしょう。
ゆとりを生み出すためには、"そうぞうりょく" −創造力と想像力− が必要です。単に時間がたっぷりとあるだけでは、ゆとりの生活とは言えません。そして、子どもたちにゆとりを生み出すためのそうぞうりょくは、子ども自身にだけでなく、むしろ私たち大人にこそ必要なのかもしれません。
 卒業生の皆さんはこれから社会に出て、やがて家庭や仕事場で、いやおうなく時間に追われることになるのでしょう。しかし私たちは、この限られた自由な時間を、十分に味わうことができているのでしょうか? 忙しさを嘆くことで、大切な残りの時間までを無駄にしてはいないでしょうか? 少ない時間の中でも自分を活かすすべを見つけるには、自分自身で人生を創造する力が必要です。
 また、目に見えて、あるいは数や量として計ることのできるような、物理的な余裕を追い求めるあまり、無尽蔵にあるかの錯覚に襲われがちな、無形の時間というものの大切さを、想像する力がないがしろにされてはいないでしょうか? 時間は万人に公平に与えられていますので、私たちはこれを手に入れることにさほど気を配ろうとはしません。でも肝心なのは、各自の想像力でもって、与えられた時間をしっかりと自分のものにしていくことだと思います。
 悲しい事件が多く起こった今年度を振り返り、またその社会へ旅立っていく皆さんのことを考えていて、こんなことを思いました。"そうぞうりょく"。これを今年の贈る言葉とし、今後の充実した人生をお祈りしたいと思います。