2007年度学校心理コース卒業論文要約


運動イメージの明瞭性を測定する作業検査の開発  有田 祥子
(略)

自伝的記憶と感情体験との関連について  金畑 真弓
 本調査は、自伝的記憶がどのような感情状態と結びつくことで記憶の想起が促進されるのか明らかにすることと、自分にとって重要である自伝的記憶と結びついている感情状態を明らかにすることを目的とした。調査1では、日常場面で遭遇しそうなエピソードを被験者に評定させ、1週間後に覚えているエピソードを出来るだけ多く書く質問紙法で行った。その結果、20エピソードのうち、2つのエピソードについてのみ、自分にとって“重要である”と見なされるものが記憶の想起に影響を及ぼしていることが示唆された。調査2では、被験者の小学校・中学校・高校時代の思い出を聞き、感情評定、鮮明度評定、重要度評定を行う質問紙法を行った。その結果、各年代で、重要だと見なされている出来事と結びついている感情状態は異なっており、年代の変化と共に変化していくということが示唆された。

親しい友人との対人葛藤場面における中学生の主張の在り方とストレス反応との関連について
 ―個人差にも着目して―  河野 麻未

 本研究では、中学生の親しい友人に対する主張の在り方の特徴を明らかにするために、主張の在り方と集団適応感および公的自己意識、私的自己意識との関連や、主張の在り方がストレス反応に及ぼす影響を検討した。
中学生234名に質問紙調査を実施し、因子分析の結果、「権利の防衛」(自己の権利が他者に侵害される場面)における行動パターンとして「拒絶」「受諾」の2つの因子を抽出した。また、「異なる意見の表明」(他者と異なる意見を述べる場面)における行動パターンとして「反論」「同調」の2つの因子を抽出した。主張の在り方と集団適応感および公的自己意識、私的自己意識との関連を検討した結果、「受諾」と公的自己意識に正の関連が、「反論」と集団適応感、公的自己意識、私的自己意識に正の相関がみられた。主張の在り方がストレス反応に及ぼす影響を検討した結果、自分の気持ちや考えを主張しても抑制しても苛立ちや不安を感じることがわかった。これらの結果から、他者を意識するあまり、自分の気持ちや考えをうまく主張できずにストレスを感じている中学生の姿が見える。

Poggendorf錯視図形における垂直・水平軸の効果  小林 由季
 Poggendorff錯視図形の主観的なズレは、角度に注目して説明されがちである。しかし、線分に注目した研究を受け、第一実験では、垂直・水平線を錯視図形提示の直前に提示することで印象付け、錯視量にどのような変化が生じるかどうかを検証する。結果、先行刺激と横断斜線侵入位置の有意な交互作用がみられた(F=5.943,df=1/16,p<.05)。これは、人間が重力の中で生きており常に上から下への力を感じているためではないかということが考えられる。そこで第二実験では、こうした重力に対する生態学的な知覚傾向がPoggendorff錯視図形の錯視を生む要因の1つとして働いているとの仮説を検証する。結果、重力説錯視傾向と図形提示の間に有意な交互作用(F=10.262,df=1/13,p<.01)がみられ、予想とは逆の錯視量の増減がみられた。まとめると、重力効果を検証しようとした結果は、一部予想に反するものではあったが見方を変えることで生態学的な重力の知覚傾向が錯視を生む一要因となっていることを十分に認めることのできる結果を得た。

新生児マウスにおける父親と父親でないオスへの選好の差異  仁波 美子

 親子関係を検証する際、これまでに研究されてきた母子関係に加えて、父子関係の研究を進める必要がある。なぜならば、母親だけでなく父親も同様に、子に養育行動を示し、子の生存・発達に影響を及ぼす種が存在するからである。また、親子関係というからには、親から子へ、そして親から子へという、双方向からの働きかけを検討すべきである。そこで、本研究においては、2日齢と3日齢の新生児マウスに対して、その父親と父親でないオスを提示し、それぞれのオスに対する、子の選好を比較した。本研究は、従来の研究とは異なり、子の側から親子関係を検証するものである。その結果、子は、父親に対して強く引きつけられるということが明らかになった。さらに、2日齢から3日齢へと、日齢が進むにつれて、子の嗅覚や身体運動能力が発達し、それによって、父親に対する選好が強まるということを示した。本研究は、父子関係研究の基礎をなすものである。

性格特性・学級風土及び座席配置がプライベート空間機能確保度に及ぼす影響  松本 雅美
 プライバシーという言葉の概念は、「権利」といった概念からは確立しているものの、心理学的側面からの検討はまだ不十分である。しかし近年、人が空間のあらゆる特徴によって与えられる心理的効果を「プライベート空間機能」と呼び、空間が人に及ぼす心理的効果に注目した研究が増えつつある。この機能は、あるひとつの要因にのみによって及ぼされる効果ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って個人の心理的効果に影響するものであると考える。そこでこの研究では、座席配置とプライベート空間機能に及ぼす効果を個人の性格特性、学級風土の各要因について個別に検討した先行研究から、これらの要因を包括的に捉える必要があると考えた。そしてどの様にこれら3種類の要因が交互作用することによって、個人のプライベート空間機能の効果に影響するのかを、3要因分散分析によって検討したものである。なお、近年数々の問題を抱える学校現場に場面設定することによって、子どもたちの成長しやすい環境づくりにおいても検討した。

受験期の高校生の自己志向的完全主義における母子間の関連
 ―養育態度認知と同一視と関連づけて―  馬渕 暁子

 完全主義の発達モデルの中に“社会的学習モデル”というものがある。このモデルでは完全主義は子どもの周りにいる大人の完全主義を学習しそれを自らの性格特性の中に発達させていくというものである。本研究ではこの社会的学習モデルを検討するため、母親とその子どもである受験期の高校生の自己志向的完全主義の関連を、認知した養育態度、母親に対する同一視の程度と関係づけて調べた。その結果、母親と高校生の自己志向的完全主義の因子間で関連があることがわかった。因子間の関連では@類似の傾向にある因子間の関連とA異なる傾向の因子間の関連が見られた。子どもは母親の完全主義の因子を学習する際、因子の傾向をありのまま取り入れ学習する場合と、意識的に避けて違う傾向を発達させる場合があるのではないだろうか。

親しい友人に対する主張行動の違いに影響を及ぼす関係性の検討
 ―大学生における正当性のある主張に着目して―  丸山 めぐみ
 本研究では、親密度が高い友人に対してと親密度が低い友人に対しての正当性のある主張行動頻度の差の検討、親密度が低い友人に対しての主張行動と不安・他者意識との関連を見ること及び親密度が高い友人に対しての主張行動と不安・他者意識及び友人との関係性との関連を見ることを目的とする。滋賀大生175名の有効回答をもとに分析を行ったところ、親密度が高い友人により主張行動を行うことが分かった。また、親密度が低い友人に対しての主張行動と不安・他者意識には関連がないことが分かった。さらに、親密度が高い友人に対しての「拒否」と「要求」の主張行動と不安・他者意識の3因子、友人との関係性3因子の関連に関しては全てにおいて関連するというわけではなく、あるケースでは関連があるというように限られた範囲での関連が見られた。これらの結果から、友人関係を肯定的に捉えている人のほうが主張行動を行うということが示唆された。

マウスの胎児における父親の体毛と羊水・母乳の複合的刺激要因効果  吉村 麻理
 これまでの親子関係研究は、主に母子関係研究が中心であったが、現在では父子関係研究が注目されつつある。なぜならば、父親の養育行動が発見されるなど、父親の存在の重要性が明らかにされてきているからである。また、父子関係研究の中でも、父親から子への働きかけに焦点を当てた研究はあるが、子から父親への反応に焦点を当てた研究はほとんどない。そこで本研究では、父親の体毛に母親の羊水・母乳を付着させ、胎児を刺激し、胎児の行動を比較することで、子の父親に対する反応を検討した。その結果、母乳を付着させた体毛で胎児を刺激すると、胎児は著しい反応を示した。胎児は、対象が父親であれ、母乳という刺激源に引き付けられるということが明らかになった。従って、母乳の存在は、子が父親と母親とを区別する際の指標になり、父子関係を検討する指標ともなり得るだろう。




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