滋賀大学教育学部心理学教室令和6年度卒業生へ

「DEIを胸に」

     渡部雅之

 卒業おめでとう。新たな世界へ羽ばたく今、少しDEIについて考えてみしょう。

 DEIとは、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion)の頭文字をとった言葉で、人権を尊重し、多様な背景を受け入れる社会を目指す考え方です。最近、アメリカではトランプ大統領の再選に伴い、DEIの見直しが進んでいるようです。アメリカは多民族国家であり、歴史的に人種や文化の違いによる対立や差別と向き合ってきた国です。そのため、DEIは社会の安定や発展に欠かせないものとされています。一方、日本は比較的単一民族国家と言われてきましたが、今やグローバル化が進み、さまざまな価値観や文化が交わる社会になっています。だからこそ、アメリカの流れに流されるのではなく、日本ならではのDEIを推進し、より多様性を尊重する社会をつくっていくことが大切です。

 特別支援教育の分野では、以前からダイバーシティやインクルージョン(D&I)の重要性が指摘されてきましたね。例えば、特別支援学級に在籍する子どもたちが、通常学級の子どもたちと一緒に活動する「交流及び共同学習」の取り組みがあります。こうした活動を通して、お互いの違いを理解し、支え合う意識が育まれます。ただ、まだまだ課題もあります。例えば、特別支援が必要な子どもたちを「支援される側」として扱いがちで、対等な関係を築くのが難しいことなどが挙げられます。
さらに、DEIは特別支援教育だけの話ではありません。通常の教室にも、発達障害や学習障害など、特別な支援が必要な子どもたちは5~10%程度いると言われています。また、そうした支援が必要でない子どもたちでも、それぞれ得意なことや苦手なこと、好きなことや価値観は異なりますよね。つまり、私たちはもともと多様な世界に生きているのです。

 「人は本質的に自己中心的である」と思われがちですが、近年の発達心理学の研究によると、赤ちゃんのころから他者に共感し、同じように感じようとする力があることがわかっています。つまり、人間はもともと「多様性を受け入れる力」を持っているのです。ただ、その力を十分に発揮するには、日常の中で意識的に相手を尊重し、異なる価値観を理解しようとする努力が必要になります。

 心理学や教育を学んできた皆さんだからこそ、このDEIをぜひ大切にしてください。単なる流行語としてではなく、「自分ごと」として考え、多様性を尊重し、公平で、誰もが心地よく過ごせる未来をつくっていく力になってください。皆さんのこれからの活躍を、心から楽しみにしています。