滋賀大学教育学部心理学教室令和7年度卒業生へ

「よりよき自分探しのために 結び」

     渡部雅之

 最近、16Personalitiesをはじめとする性格診断がずいぶん流行っていますね。「私はINTJです」「私はENFPだからさ」などと、自己紹介代わりに使われることも珍しくありません。気になる相手との相性診断だってバッチリ。便利ですし、話のきっかけにもなる。ですから、楽しむなとは言いません。ただ、心理学を学んだあなたたちには、もちろんわかっているでしょう。自己評価式の質問なんだから、「そこそこ当たる」のはあたりまえだということを。

質問に答えているのはあなた自身ですから、その時点での自己理解が、そのまま結果に反映される仕組みです。しかも、誰にでも当てはまりそうな表現が巧みに並べられていれば、「確かにそうかも」と思えるのは当然でしょう。ここまでは、これまでの心理学の授業で何度も触れてきた話ですね。

 この話題をきっかけに、むしろ少し立ち止まって考えてみてほしいのです。もしも診断結果が、「あなたも知らなかった本当のあなた」を完璧に言い当ててしまったら、それは少し恐ろしいことではないでしょうか。自分でも気づかない性格や傾向が、画面の向こうから断定的に示される。私にそんなイヤな面があったなんて…。でも、ちょっと待ってください。そんな「本当の自分」は、はたして存在するのでしょうか。

 心理学は長い研究の歩みの中で、「自己」というものが決して固定的ではなく、他者との関係や状況の中で形づくられる、相対的な存在であることを示してきました。家族の前のあなた、友人の前のあなた、バイト先でのあなた。それらは同じ人間でありながら、少しずつ異なるはずです。どれか一つだけを切り出して「これが本当の自分だ」と言い切ることに、どれほどの意味があるのでしょう。

 性格診断の結果を眺めて一喜一憂する時間があるのなら、ぜひいろいろな人と会ってください。話して、ぶつかって、気まずくなって、それでもまた話す。そうした関わりの中で、あなたは何度も「自分はこんな人間だったのか」と新しい発見をするはずです。それは、どんな診断結果よりも不正確で、面倒でしょうが、ずっと生き生きとした実感を伴うはずです。

 大学を卒業すると、正解らしきものを示してくれる存在は急に少なくなります。だからこそ、自分を一つの型に押し込めず、関係の中で揺れ動く自分を引き受けて生きていってください。それは苦労やトラブルの多い、場合によっては逃げ出したくなるような作業かもしれません。でも、人との交わりの中で更新され続けるあなた自身に、どうか飽きずに向き合ってください。

 またどこかで、ずいぶん成長したあなたと再会できる日を、楽しみにしています。