顔回転課題

幼児期初期の空間的視点取得能力を測定するために、渡部が考案した課題.

 装置 課題刺激として,円盤上に描かれた左右対称な女児の顔を用いる.顔図形を刺激としたのは,上下の方向性が明確であることと,対象年齢の子どもにとってなじみ深いからである.円盤の直径は80pで,中心から20pずつ離れた対称位置に,直径10pの穴が2つ開けられている.これらは白いセルロイド板で覆われ,目とみなされる.この顔刺激は,縦・横55p,高さ15pの台上に載せられた.台にはコントロール・ボックスが約50pのコードで接続され,実験者手元のスイッチ操作で台上の目のいずれかが点灯したり,2種類のブザー音のいずれかを鳴らしたりすることができる.さらに,顔刺激と台の間に組み込まれた回転盤によって,顔刺激は手で容易に回すことができるようになっている.

装置の台座とコントロールボックス
    装置の台座部分とコントロールボックス


顔刺激
      顔刺激 (右目が点灯している)


 課題 顔刺激の顎に相当する部分が子どもの最も近くにある時,この方向を'A'と表し,反時計回りで90,180,270度回転させた位置を,それぞれ'B','C','D'と呼ぶ.
 まず顔刺激を,B,C,Dのいずれかに向ける.これらの向きにおいて,左右どちらかの目を点灯し,同時にブザー音のうち1つを鳴らす.子どもが光と音に十分注意を向けたと実験者が判断した後,顔刺激を再度A方向に向け直す.この際,被験児が刺激の回転を見ることがないよう,注意を別方向にそらしたり,あるいは閉眼させたりする.この際,顔刺激を正立方向から見るために,子ども達が身を乗り出したり顔を大きく傾けたりすることのないように注意すること.
 回転後すぐに,先ほど示されたブザー音のみが再提示する.顔回転課題は,この時に子どもが,音に対応して点灯するはずの目の位置を理解できるかどうかを問題とするものである.注視や指さし,発話によって自発的に反応する子どももいるが,そうでない者に対しては,どちらの目が点灯するはずかを示すよう求める.

実験風景
  実験風景 (顔刺激の左目を指さしている)


 この顔回転課題で用いられている論理は,次の通り.
 
B〜Dの向きで音と光の対が示された時,視点取得の可能な子どもは,顔刺激が正立して見えるように視点を取り,点灯していた目の位置を記憶するだろう.一方,視点取得能力が不十分であれば,顔刺激は回転されたままの状態で認識され,目も一時的な位置(例えば,本来の右目に対して,上や左など)が記憶される.そのため反応を求められた際に,前者は記憶表象と眼前の知覚が一致するため容易に正答に至るが,後者は,記憶表象と知覚が一致しないため,正答を生じることが困難となる.

なお、本課題を用いた実験の詳細は、心理学研究(第71巻,p.26-33)をご覧下さい。


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