@ 大学での受講経験が環境意識形成に及ぼす影響 −大卒成人を対象として−
    日本教育心理学会第43回大会(2001.9/7,9:45-11;45,名古屋国際会議場)にて発表

T.目的
 大卒成人を対象とし,学生時代の環境授業受講経験と環境意識との関連を検討する.

U.方法
 被験者:京都府,大阪府,兵庫県,奈良県下の大卒成人を対象とした。被験者は、日経リサーチ兜ロ有のサンプル中から、無作為抽出した。調査冊子を郵送し、返信用封筒にて返送してもらった。199名分の有効回答を得た(回収率50.8%)。
 質問紙:環境意識に関する質問項目群と調査対象者の属性に関する質問項目群が含まれた。
 <環境意識>下の10種の環境問題を提示し、(a)どのくらい身近だと思うか(以下“身近さ”)と(b)改善のためにどの程度関われるか(以下“関与可能性”) を、それぞれ4段階評定で尋ねた。
 @地球温暖化, Aオゾン層破壊, B森林資源の破壊
 C大気汚染, D水質汚染, E食品汚染, F交通問題
 Gごみ問題, H子どもの遊び場所の喪失
 I行き過ぎた情報化社会             
 <属性>年齢,性別,専攻,家族形態,環境授業受講経験,社会的学習経験に関する質問を行った。

V.結果と考察
(1) 環境授業の特徴
 環境授業受講経験有りの1/4以上が肯定した特徴は,高校までで「いろいろな環境問題を取り上げて手広く解説」,「その問題が起きる原因や背景を解説」,「思った以上に悲惨な現状をまざまざと見せつける」ものであり,大学においては「その問題が起きる原因や背景を解説」,「その問題の解決法を解説」,「その問題が現実にはなかなか解決が難しい理由を解説」,「思った以上に悲惨な現状をまざまざと見せつける」ものであった.特徴はほぼ共通していると考えられる.逆に「難しすぎる」,「少人数授業」,「見学・体験を含む」ものであるとする回答はほとんど見られなかった.
(2) 環境授業の受講経験と環境意識の関連
 環境授業受講経験の2群(有無)間で環境意識に違いがみられるかを,評定平均値に対するt検定によりみた.高校までの受講経験では,オゾン層破壊,森林資源の破壊,水質汚染への身近さと水質汚染への関与可能性において、有り群(137名)の方が5%水準で有意に高い値を示した.大学での受講経験では,大気汚染への関与可能性において有り群(22名)の方が5%水準で有意に高い値を示し,一方食品汚染への関与可能性においては無し群の方が5%水準で有意に高い値を示した.一般に,地球規模の環境問題に対しては学習経験による環境意識形成の促進効果が伺われる.
(3) 個人属性や社会的学習経験と環境意識の関連
 性差に関するt検定より,水質/食品汚染に対する身近さ/関与可能性,オゾン層破壊に対する身近さ,行き過ぎた情報化社会に対する身近さにおいて有意差が示され,いずれも女性の意識が高い.年齢群を要因とする一元配置分散分析においては,オゾン層破壊と子どもの遊び場の喪失の身近さにおいて主効果が示された.また,家族形態を要因とする一元配置分散分析からは,ごみ問題,子どもの遊び場の喪失,行き過ぎた情報化社会への身近さにおいて主効果が示され,総じて子どものいない世帯の意識が低かった.さらに,環境問題のことを深く知るきっかけとなった社会的学習経験のうち,「家族や知人の影響」は多くの環境意識の高さと有意に関連していた.この他に「新聞や書籍の記事」,「テレビやラジオの番組」「地域や自治体による保全活動」,「生涯学習の授業や講演」を通して知ることも,いくつかの環境意識の高さに有意に結びつくことが示された.



A 大学生と大卒成人との比較からみた環境意識形成の特徴
    日本心理学会第65回大会(2001.11/8,13:00-15:30)にて発表

T.目的
 大学生と大卒成人の資料を比較・検討することで,学生時代の環境授業受講経験ならびに社会的学習経験が環境意識形成に及ぼす影響について考察する.

U.方法
 被験者:大卒成人は,渡部・若松(2001)からのもの.男性130名,女性67名であった.大学生は渡部(2001)の資料に近畿の国立総合大学に在籍する2〜4回生115名分を加え,計263名分を得た.男性68名,女性194名であった.
 質問紙:環境意識に関する質問項目群と調査対象者の属性に関する質問項目群が含まれた。
 <環境意識>先と同じ.
 <属性>性別,環境授業受講経験(高校までと大学においての経験の有無),社会的学習経験に関する質問(「テレビやラジオの番組を通して」など7つの事項に対し,環境問題について深く知るきっかけになったものを選択)を行った.

V.結果
(1) 年齢群間の環境授業受講経験と社会的学習経験の違い
 環境授業受講経験が年齢群間で異なるのかを,カイ二乗検定により検討した.有意水準を1%に設定して判定した(以下の分析においても全て同様).高校までの受講経験において,大学生群(66.7%)が成人群(37.1%)にくらべて経験者が多かった.大学での受講経験には違いは認められない(いずれの年代も3割前後).社会的学習経験においては,「新聞や書籍の記事を通して」と「テレビやラジオの番組を通して」の経験は成人群の方が多かったが,他の「家族や知人の影響」,「地域や自治体による保全活動」,「生涯学習の授業や講演を通して」,「仕事や専攻分野の関係で」,「ボランティア活動を通して」などは,大学生の方が多く経験していた.
(2) 環境授業受講経験と年齢群の効果
 環境意識を従属変数として2つの分析を行った.1つは,高校までの環境授業受講経験(有・無)と年齢群(大学生・大卒成人)を要因とする二元配置分散分析,もう1つは大学での環境授業受講経験(有・無)と年齢群を要因とする二元配置分散分析である.同じ箇所で年齢群の主効果が示された.身近さ意識では,地球温暖化,オゾン層破壊,大気汚染,食品汚染,遊び場喪失で,関与可能性意識では食品汚染,遊び場喪失,情報化社会においてである.いずれも大卒成人の方が大学生よりも意識が高い.学習経験の主効果や交互作用は有意でなかった.年齢群間の性比が異なっているので,年齢群の効果は実際には性別の効果であったかもしれない.そこで性別を要因とする一元配置分散分析を行ったが,性別の主効果はいずれも女性の方が男性よりも意識が高いことを示しており,成人群には男性が多いという事実と食い違いをみせた.これより,成人群の意識の高さを性別に帰因すべきでないだろう.なお成人群内の3つの年齢層(30代,40代,50代)間に有意な違いは認められず,発達的変化は成人群と大学生群との間のみに存在すると考えられる.
(3) 社会的学習経験と年齢群の効果
 環境意識を従属変数とし,環境問題のことを深く知るきっかけとなった社会的経験の有無と年齢群とを要因とする二元配置分散分析を行った.社会的学習経験の主効果が示されたのは,遊び場喪失の身近さと関与可能性に対する「仕事や専攻分野の関係で」の経験のみで,いずれも経験有り群の方が意識が高かった.一方,社会的経験と年齢群との交互作用が5カ所で示された.水質汚染の関与可能性に対する「新聞や書籍の記事を通して」の経験,食品汚染の身近さに対する「テレビやラジオの番組を通して」の経験,食品汚染の関与可能性に対する「家族や知人の影響」,ごみ問題の身近さに対する「地域や自治体による保全活動」の経験は,いずれも成人では経験無し群の方が意識が高く,大学生では反対に経験有り群の意識が高かった.残るごみ問題の身近さに対する「生涯学習の授業や講演を通して」の経験は,逆に成人群の経験有りと大学生群の経験無しの者が意識が高かった.

W.考察
 渡部・若松(2000)が示した受講経験効果が今回みられなかった理由として,中高生のように受講直後ではなかったこと,多種の経験効果が混在したことなどが考えられる.特に後者に関して,その直接的な影響は大きくなかったが,注目に値する整合的でない結果が得られた.まず,成人群の社会的経験がマスメディアに依存するのに対し,大学生は多様な経験を持っていた.その一方で,多くの環境意識は成人群の方が高かった.さらに成人では,社会的経験の無い者の方が高い環境意識を示す例が見出された.これは,環境意識形成に対して様々な経験が複雑に関与しているためであると予想されることから,一層詳細な分析が必要であると思われる.



B  女性における青年期から老年期までの環境意識変化
    日本発達心理学会第13回大会(2002.3/28,9:30-12:00)にて発表

T.目的
 渡部・若松(2000)は,中学生から40代までの女性の環境意識を比較し,20歳頃を境に環境意識が高まるとの結果を得た.今回は,年齢幅を老年期にまで広げ,女性における環境意識の生涯変化を明らかにする.

U.方法
 被験者:我々が行った複数の環境意識調査結果を総合することで資料を得た.使用した調査は次の通り.
@ 乳幼児の母親を対象した調査(1996):滋賀県内の幼稚園もしくは保育園に子どもを通わせる母親に調査票を配り1563部を回収した.20代から40代までが含まれる.
A 女子大学生とその母親を対象にした調査(1997):滋賀県内の国・私立大学に通う女子学生103名とその母親を対象とした.母親分の回収は78部で,40代と50代が含まれる.
B 中高生とその母親を対象にした調査(1998):近畿の中高生並びにその母親を対象とした.女子学生は108名(中学)と105名(高校),母親は429名分が回収された.母親は30代から50代までである.
C 女子大学生を対象とした調査(2000):近畿の3大学に在籍する学生を対象とした.回収は196部.
D 大卒成人女性を対象とした調査(2000):近畿の大卒成人女性を対象とし,199名分の回答を得た.
E 大卒の高齢女性を対象とした調査(2001):滋賀県内のA大学同窓生のうち,60歳以上の女性を対象とした.113名分の回答を得た.60代と70代が含まれる.これは,今回新たに行った調査である.
 質問項目:先と同じ若松・渡部(1996)の環境意識質問項目.
 身近さ意識は20代から40代にかけて急激に上昇した後,生涯を通じて徐々に高まるのに対し,関与可能性は成人期以降ほぼ横這いであった.環境問題への関心は高まるが,解決への方途は知識として獲得せねばならないせいであろう.一方で,特定の年齢で意識のピークがみられるケースがあった.例えば「遊び場喪失」への身近さ意識は,子育て期である20〜30代が最も高く,次いで孫を持つ世代である60〜70代で再び上昇傾向をみせる.
 さらに10種の環境問題に対する身近さあるいは関与可能性評定値を因子分析し,「地球規模因子」と「日常生活因子」を抽出した.年齢群別の両因子得点は以下のように変化した.



 中高生では日常生活問題への意識が低く,逆に子育て世代である20−40代は日常生活問題への意識が地球規模問題を上回る.そして,50代以降,両意識は高いレベルで接近する傾向が見て取れる.
 以上のように,環境意識は生活環境の変化を反映しながら発達すると考えられた.



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