研究総論

Ⅰ.研究主題について

本校の今年度研究の主題は,昨年度に引き続き以下の通りである。

「学ぶ(すべ)を生かし働かせる子供」を育む

1.学ぶ術(すべ)とは

勝野他(2013)が示す教育課程設計方針に則ったとき,「学ぶ術」は「資質・能力の下位のカテゴリとしてのスキル」に当てはまる。つまり,ある資質・能力を育成するとき,その資質・能力の育成は,どのような学習活動によって達成し得るのかということを明らかにし,それを子供が学習において認知的に生かし働かせることができるようになったものである。例えば,本校が平成30年度まで研究に取り組んできた「自己実現を支える7つの資質・能力」で考えてみたとき,「ととのえる力」を「自己理解」や「学習調整」といったものに分解し,さらに「自己理解」を「自己理解するための学習活動」を念頭に置いて,どのような学習活動において子供の自己理解力を育てているのかを明らかにしたものが,学習において的確に位置付けられ子供たちが繰り返しその活動を通して方法を認知し,自分のものとしたものが「学ぶ術(すべ)」なのである。

この学ぶ術は,それぞれの教科に即した形で活用し得るものである。自分の学習を調整したり,物事を見極めたり,伝え合ったりすることは,どの学習においても有効に働くものであり,その学習活動を繰り返し経験することで,資質・能力の育成が成し得ると考える。

また,術とは単なるスキルに留まらないことを示す。スキルは,その場で使用する道具と捉えられ,教師が用意して,強いることで使用しているように見せかけることが可能である。つまり,スキルは「使うことを目的とし得る」概念である。しかし,「術」は違う。術の目指すところは,子供自身が意図的にその学びのスキルを働かせるところまで高められたものである。自分たちの願いに到達するために,それぞれの場面において有効に働くスキルを子供が認識しており,意図的に使用することができるものを目指すという意味を含めて術である。

 

2.生かし働かせるとは

生かし働かせるとは,学ぶ術を子供が体得し,自らの意思で判断し,それぞれが有効に働く場面に応じて意図的に術を選びだし,働かせていくことを表す。また,これが一時のものではなく生活の中や将来も含めて活用し得るものとして子供に根付き,体得された状態を目指す。例えば,「チョウの卵」を予想する活動において,「自分の経験を掘り起こす」「自分の中にある2つの知識を結びつける」といった思考の方法は,子供が無意識に行う学習活動である。そのため,「自己認知」「関係づけ」といった学びの方法は「非認知領域(自然に身につくものとされてきた)」に分類され「顕微鏡の使い方」のように,明示的に学習の中に位置付けられることはない。そのため,その方法の獲得は子供自身に丸投げされており,その方法を見いだせない子供は,いつまでたっても「予想する」という学習活動を「できない」のである。その方法を学習の中で教師に指示されたときにしか引きだせない,使えないものではなく,子供の認知が伴う中で学習場面に応じて選択し,意図的・計画的に活用していける。つまり,学ぶ術を子供自身が自分のものとして手中に収め,活用していけるようにすることを「生かし働かせる」は表している。

 

3.育むとは

広辞苑で「育む」を調べてみると「養い育てる」「発展を願って育成する」とある(新村他2008)。つまり,「育てる」=「教え導く」「しこむ」「しつける」(新村他2008)からさらに一歩子供に寄り添った立場で,育成を図ることと理解できる。

ややもすれば,教師はこれまで先人たちが積み上げ培ってきた知識や技能を後の世代に伝達する役割だという感覚がいつまでも内在し続けている。その常態化した感覚を払拭し,それこそ「育む」という立場に立ち返って,授業を見つめ直していくことが大切である。「差異や葛藤から考えを深めたり,相手の意見に付け加えて考えを精緻なものにしたりしていくことは,対等だからできる事である。対等とは,年齢ではなく,教室における役割やその場での社会的な関係とその内容に関する熟達の程度についてである。したがって,学習内容と教室での関係や役割によって,教師もまた一人の学び手として参加することができる。」(秋田2000)というように,教師=伝教者・子供=受教者という立場から離脱して,子供の姿を捉え,そこに内在する力を引きだし,活性化させ,認知させ,磨いていくことが教師の役割として求められる。「教師には,『ファシリテイター』『コーディネーター』『サポーター』の役割が期待される。」(藤井2018)のだ。「学ぶ術」は,子供たちの中にその素地は備わっていると考える。そのため,子供たちが持っている学ぶ術の原石を教師が見いだし,それを子供自身の手で掘り起こしながらより洗練されたものへと磨いていけるように,あらゆる角度から「養い育てていく」事を目指す。それを「育む」と表した。

 

Ⅱ.昨年度研究の取り組み 

1.昨年度研究の取り組みの基となる仮説

(1)資質・能力の育成ために重点として働かせる術は,発達特性に応じた重点があるのではないか。
(2)術を働かせるための学習デザインの目標は,「術を働かせる」ではなく「探究を生みだす」とすることで達成できるのではないか。

 

2.昨年度研究の副題

~ 発達特性に応じた極上の探究とは ~

(1) 発達特性

教育心理学において,「発達段階(ピアジェ)」や「発達課題(ハヴィガースト)」などがある。「発達段階」は,発達の特徴を基準として発達過程を区分したものであり,「発達課題」は,人間が社会的に健全な成長を遂げるために発達の各段階において学習したり遂行したりしなければならない課題をいう。

本校においては,過去(昭和59年~昭和61年)に「発達課題」への手がかりとして,学習の中の子供の姿に基づいた発達段階(各学年)ごとの子供が持つ特性を明らかにする研究に取り組んでいる(安井他 1984)。このとき,発達特性を見取る視点(発達特性を生みだすフィルター)として,A.値打ちに対して成長しようとする方向,B.ひかれるもの・ひたれるもの,C.くり返し方・くり返しを支えるもの,D.安定と不安を葛藤させているものの4つを設定し,学習の中の子供の特性を捉えようとしている。この特性を明らかにしようとした裏には,「子供にとってよい学習」「子供の学びたい願いに応える学習」を実現する上で,子供の姿から「こんなことを,この子に,今」という授業づくりを目指すためのものであった。つまり,ここでいう発達特性は,学習し続ける子供(探究する子供)を育む発達の援助としての教育のための足がかりとなる各発達段階の子供に現れる特徴的な姿と捉えることができる。

 

(2) 極上の探究

「極上の探究」とは,本校研究の講師をしてくださっている東京大学大学院浅井幸子先生の定義をいただいたものである。浅井先生は,「極上」を「順位付けできないものの中でよいということ」と定義しており,また,「探究(実際は,探求と表記しているが,本校使用の表記に合わせて探究と表記させていただく)」をカルラ・リナディ著の「レッジョ・エミリアと対話しながら」から引用して以下のように説明している。

探究とは,新たな可能性の宇宙に向けての,個々の人の,あるいは集団の出立を表す言葉なのです。探究とは,ある出来事の生成であり,開示なのです。探究は,芸術です。芸術においてそうであるように,存在の,本質の,意味の追求が行われるところでは,事実上どこでも行われます。

 

つまり,学習者が学習の対象(人・物・事)の存在・本質・意味を問い続け,追い求める中で,学習者自身が発達の領域を超えて最大限に背伸びしながら,学びを深化させていくことと捉えることができる。そこで,本校では,「極上の探究」を「より質の高い対象の存在・本質・意義の追求と関係の深まり」と定義することとした。

 

3.明らかにしたこと

昨年度の研究において,次のことを明らかにした。

(1) 各学年の発達特性

まず,各学年の発達における特性を明らかにした。それぞれの学年の子供たちの持つ特性を第2項において述べた本校における過去の研究(「発達特性を生かした学年教育の構想と展開」を参考にして,次の4つの視点を設定し,各学年の特性を明らかにした。4つの視点とは,「向かおうとしているもの」「惹かれるもの・浸れるもの」「揺らぐもの」「よりどころにするもの」である。これらは,それぞれ「探究の行く先」「探究の最中」「概念の更新」「判断の基準」に対応するものとして設定した。探究をえがく上での参考となる要素を取り出したものである。これらの視点を基に,子供たちの様子を分析し,各学年の子供たちの特性を明らかにした。

 

(2) 各学年の発達特性に応じた極上の探究の在り方

発達特性を4つの視点を切り口に明らかにし、それに基づいて「極上の探究」をえがいた。そのえがきに沿って,学習をデザインしたときにその学習が「極上の探究の在り方」としてふさわしいものなのか検討し,発達特性と関わらせながら,「極上の探究の在り方」を探ってきた。

 

(3) 極上の探究の中で働く学ぶ術(学ぶ術の学年パック)

極上の探究をする子供の姿を見つめた時,その探究の中に働く学ぶ術は,その学年において働かせておきたい学ぶ術になってくる。その術は,学年に特徴的なものとなってくることが考えられ,その特徴的な術は,その学年において重点的に働かせることや子供自身が意図的に働かすことができるものとして捉えることができる。この「各学年の極上の探究において特徴的に働く術」を明らかにして,「学ぶ術の学年パック」として定義した。

 

 

2.昨年度の課題

(1)学ぶ術の学年パックの系統性

昨年度の研究において,各学年部で子供の探究する姿から,対象との関わりの中で働いている術を抽出し,各学年において「そのときに,存分に働かせておきたい術」をパックとして重点化した(表3)。しかし,学ぶ術パックを学年間で比較してみたとき,発達特性に即した術のある程度の系統性は見られたものの,曖昧な部分も多く見られた。例えば,第3学年と第4学年において「比べる」と「比較する」とあるが,それぞれは同じものなのかそれとも各学年に応じてその「比較」の在り方に違いがあるのか。また,第2学年において重点化されている「みる・きく・ふれる」といった五感については,第1学年において重点化されなくてもよいのか等,議論が不十分な部分が多くある。学年間の系統性について検討を重ねることで,より有効性の高い「学ぶ術パック」として整理できると考える。

 

(2)発達特性に応じた極上の探究と学ぶ術の有効性

発達特性を明らかにすることによって,発達特性に対応した手立てを打つことで,子供たちが勢いづき,のめりこみ,対象との関わりを深めていく姿を生みだしていくことが出来た。しかし,学ぶ術が具体的な対象との関わりにおいて、どのように探究を豊かにしているかということは明らかになっていない。発達特性を学年毎に見てはいるが、その学年の中には、多様な子供が存在している。その多様性を包括していく中で、発達特性に応じて探究を生みだすある程度の法則を見だしていくことは,可能なのだろうか。「学ぶ術パック」として術を重点化し,各学年における子供たちの対象との関わりと学ぶ術の有効性を見ていく中で,具体的な学びの姿を通して探究と学ぶ術の関係性について明らかにしていきたい。

 

(3)学ぶ術が働く場面と資質・能力の育成

本研究主題で取り組んだ第1年次の成果の中で,本校において育てたい資質・能力を「ひらく力」「みきわめる力」「つたえあう力」「ととのえる力」の4つに整理し,学習のある場面において「学ぶ術」を存分に働かせると,それぞれの資質・能力が育つという方向性が見えていた。しかし,その場面がそれぞれの学びの中のどの段階なのか,探究の過程のどの場面なのかについては,明らかになっていない。資質・能力の育成という視点に立ち戻って,今回明らかになった「学ぶ術の学年パック」を働かせていく場面を明らかにする必要がある。

 

Ⅳ.今年度の取り組み

1.昨年度の課題の整理と今年度の目的

昨年度の課題を整理すると以下の3点になる。

1.学ぶ術の学年パックの系統性を精査する必要がある。
2.発達特性と学ぶ術の学年パックを一般化していく必要がある。
3.学ぶ術が働く対象や場面と資質・能力の育成についての明確化する必要がある。

よって、今年度は昨年度の課題解決に取り組み、発達特性や極上の探究、そこから見いだされる学ぶ術パックをより確かなものへと質を高めていく事を目指す。

 

2.今年度研究の方法

今年度は、昨年度の課題に取り組み、「発達特性」「極上の探究」「学ぶ術パック」の系統化や一般化に次の方法で取り組む。

①昨年度の成果に基づいて、発達特性や極上の探究をえがく。(学年部・教科部が協働して、授業づくりを行う)

②今年度の学年部で「発達特性の検討」を行う

③「資質・能力が育つ場面を明確化」する【指導案に明示】

④授業実践を通して、「発達特性に応じた極上の探究を具体化」

⑤実践で見られた子供の姿から

「発達特性のみ取り」

「発達特性の系統性」

「学ぶ術の系統性」

「極上の探究の在り方」の検証を行うと共に、「学ぶ術パックの再抽出」を行う。

⑥協議で明らかになったことに基づいて、再度「発達特性に応じた極上の探究」をえがく

⑦以降②~⑥をくり返す。

⑧研究の成果を

「カリキュラムカード」(極上の探究の具体化)

「研究紀要」(系統的な発達特性やそれに応じた極上の探究の在り方、学ぶ術パックの一般化)にまとめる。

 

3.今年度研究の副題

~ 対象との関わりを極上に導く,発達特性に応じた学ぶ術とは ~

 

4.今年度研究仮説

今年度の研究仮説を以下のように設定する。

対象との関わりを極上に導く探究の在り方を追究することで、発達特性や学ぶ術パックの適正、系統性が再検証され、より確かな発達特性や学びの在り方を見いだすことができるだろう