研究総論

Ⅰ.研究主題について

本校の今年度研究の主題は,昨年度に引き続き以下の通りである。

未来を自ら切り拓く資質・能力が育まれるために必要な

『真の探究』を明らかにする

 

1.真の探究とは

真の探究とは,2つの学びの姿を定義している。

一つは,「対象に関わり,課題を見いだしたり,創造したいものを見いだしたりし,解決方法を考え実行したり,友達と協働したりして問題解決するこの一連の探究の過程を主体となって繰り返し行うこと」である。この学びによって,知識や価値や創造物を生み出すとともに,子供が主体となって,自ら問題解決していくことの連鎖を生むことで,その知識や価値,創造物が深化させることができる。

もう一つは,「各教科に固有の見方・考え方が,前述の学びの過程の中でより洗練され,汎用的に使えるようになること」である。教科の学びの中で子供たちが目の前の材に触れたとき,子供たちはもともともっていた見方や考え方,または,それまで育んできた教科固有の見方や考え方を働かせて,その子なりの課題や創造したいものを見いだし,学びを始める。しかし,そこで働かせている見方・考え方は,教科の本質というには十分ではない。子供たちは,前述の一連の探究の過程の中で,さらに教科の本質につながるものへと洗練し,その本質に価値を見いだすのである。その洗練された見方や考え方は,教科の中にとどまらず,教科を超えた全く別の場面で活用できるようになるのである。

真の探究とは,この2つの学びを表す。

 

2. 未来を自ら切り拓く資質・能力とは

人は,生まれたときから自ら外界に働きかけ,多様な見方・考え方を自分のものとしていく。それは,人が成長しても止まることはなく,繰り返す外界への働きかけによって,その環境に適した関わりができるようになっていく。それは,未だかつてない速さで変化し続ける今,そしてこれからの世界においても変わらない。

子供たちが社会に出る時には,さらに予測困難で,激動の世の中が待ち受けているであろう。子供たちは,自分はもちろん,社会全体が豊かで幸せになるように,多様な他者と協働しながら自分の手で社会を生きる力が必要となる。未来を切り拓く資質・能力とは,この力を表す。子供の中にもともと存在する資質・能力を,真の探究を通して未来を切り拓く力として育んでいくのである。

3.育むとは

「育む」に類似した言葉として,「育てる」がある。「育てる」は,「成長させる」「教え導く」「しこむ」というように,教師が教授する側に見て取れる。奈須先生は,「すでに子どもたちが展開している「学び」をそのまま就学後も連続させ,さらに各教科等の特質に応じた「見方・考え方」に繰り返し触れさせることで,知識の構造を徐々にその教科等の特質に応じたものへと修正・洗練・統合していけるよう支援するのが教師の仕事であり学校の任務なんだ。」(奈須2020)と書かれている。産業社会から知識基盤型社会へと変化をとげた今,知識を教師が系統的に教授するのでは子供の学びは生まれない。子供一人一人の学びに寄り添い,子供自身のもつ学び手としての原石を子供たちが見つけ出し,磨いていけるように,教師はコーディネート,ファシリテート,サポートしていく必要がある。それを「育む」と表した。

 

Ⅱ.昨年度研究の取り組み 

1.昨年度研究の取り組みの基となる仮説

未来の社会に通用する見方・考え方を教科ごとにえがき、それを体現する授業をデザインすることで、未来を切り拓くために必要な真の探究が明らかになるのではないか

2.昨年度研究について

(1)未来社会に必要な教科固有の本質(見方・考え方)をえがき、授業で具現化する

本校に在学中の子供たちが社会にはばたく時代の未来の社会像から,教科の本質(見方・考え方)を「教科ならではの知識・価値・美の生成の方法」「教科固有の知識・技能を統合,包括する主要な概念」の2つに視点でえがく。これは,今後,長く続く未来へも汎用できるものであると考える。そして、子供たちが教科固有の本質(見方・考え方)を働かせ,探究する授業をデザインすることで,真の探究をする子どもの姿から汎用的に用いられる見方・考え方、資質・能力を明らかにしていく。

 

.今年度の成果

1.教科の本質「その教科ならではの見方・考え方」

「未来を切り拓く子供たちが,小学校教育の中で育むべき教科ならではの見方・考え方は何か」それぞれの教科部で探ってきた。

例えば,理科では,自然の事物・現象に対して,目の前の現象や友達の考えと,素朴概念や子供がその時点で持っている理科ならではの見方とのズレから見いだした仮説を,理科ならではの考え方を働かせて誰しもが納得のいく方法で証明を行い,法則を見いだす。図画工作科では,ものからの感受によって情緒が働き,子供の中で表したいもののイメージが湧き上がる。あるいは,ものへの表出によって身体感覚を伴う体験を蓄積していく。ものとの感受と表出を繰り返す中で,より造形的に「美しい,面白い,よい,美しい」といった価値へと向かっていく。道徳科では,子供が対話によって他者の違う価値観に出合い,自分の中にはなかったよさを感じたり,自分の考えを強化したりしながら,子供自身の見方をより多面的な見方へと更新していく。

このように,教科の本質である「教科ならではの知識・価値・美の生成方法」がはっきりしてきた。

教科の本質(その教科ならではの見方・考え方)
国語科 「どんな様子が描かれているか」「伝えたいことは何か」という言葉による見方
言葉の関係性を「どう捉えるか」「どう問い直すか」という言葉による考え方
社会科 社会の仕組みを,生活経験や素朴概念を足がかりとして追究し,よりよい社会を構築するために実社会に問い直す見方・考え方
算数科 事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉えようとする見方
根拠を基に筋道を立てて,帰納的・演繹的・類推的・統合的・発展的に思考しようとする考え方
理科 証明された法則を論証するために必要な粒子的・エネルギー的・時間的・空間的な見方
自然の原理や規則を誰しもが納得のいく形で証明する実証性のある仮説・再現性のある条件制御・系統的観察,客観性を高める外れ値を見極める考え方
生活科 物事との関わりを「自分ごと」として捉え,多様な情報や気付きを自分の思いや願いを関連付けて判断・実行し,
自分の生活を創り出していく見方・考え方
音楽科 音や音楽と,自分たちの思いや意図・感受したこととを結び付け,能動的に表現したり鑑賞したりする見方・考え方
図画工作科 ものとの感受と表出の関係を繰り返す中で,形や色,イメージといった造形要素で思考し,より造形的に「楽しい,
面白い,よい,美しい」といった価値へと向かっていく見方・考え方
体育科  「する・見る・支える・知る」といった多様な関わり方や培ってきた知識や技能,経験を生かして,遊びを拡張していく
中で,対象と身体とを照らし合わせて対話し合い,動きを調整していく見方・考え方
道徳科 様々な事象を道徳的諸価値の理解を基に自己との関わりで多面的・多角的に捉える見方
自己を見つめ,「これまで」「今」「これから」をつなげながら,自分が大切にしたい生き方を創造していく考え方
外国語科
外国語活動
異文化をもつ人々・言語・文化や,仲間との関わりの中で,自分の価値観も他者の価値観もどちらも尊重する見方
目的や場面・状況に応じて,より自然で相手を思いやった外国語でのやりとり・発表を考え,表現していく考え方

2.真の探究から見えてきたもの

(1)子供が主体的につくる探究の連鎖

探究の連鎖は,大きな時間軸で見ると単元,より小さな時間軸では1時間の中に存在する。その探究の連鎖を子供たち自身が生み出していくことが,未来を切り拓く真の探究の姿であると考える。

生活科では,「教師の与えられた情報に導かれて活動を進める探究」から「これまでの経験から獲得した多様な情報や自分の思いや願いを材料にして,自分たちが判断し実行していく探究」へ転換する姿が見られた。入学して半年たった子供たちが,自分の思いや願いという意志を持って創り出そうとする,自分の力で探究の連鎖を生み出すことを始めた姿である。

国語科では,自分の中にある「いいな」という思いを表現する活動から,友達の見方を取り入れることによって自分の生活場面に置き換えて物語を読み味わう姿への更新が見られた。物語を読み味わう見方・考え方を深化させたことによって起こった子供の探究の連鎖の姿である。

低学年においても,材を整え,学び方を育むことによって,子供たちは,探究の連鎖を生み出し,未来を切り拓くための資質・能力を教科ごとに育んでいくことができることが見えてきた。

 

(2)探究の連鎖の中で起こる「自身に向き合う探究と協働する探究」

探究の連鎖の過程では,子供たちは,不確実な自分の考えを資料や結果といった確実性の高いものをもとに多面的・多角的により妥当といえる考えをつくり出すことを繰り返したり,自分のつくり出したいイメージと理想や友達の考え,目の前の実際との間を何度も繰り返したりさせてながらいる。

図画工作科では,イメージを豊かにして,さらに構想し表していく過程で,自分と向き合う。表したいもの(内的)と表したもの(外的)との間を行き来する思考の中で,子供の中にあったイメージが,意味や価値として創られていく姿が見られた。外国語活動では,伝えたいという思いと受けとりたいという相互の関係から探究が生まれる姿が見られた。人との関わりの中で相手の状況に配慮しながら伝え合う見方・考え方を深化させる姿が見られた。

子供が自分に向き合い,内にあるものの状態を自覚することで,自分の外へ情報や考えを求めて協働する。そして,外から自分の内に新しい価値として取り入れたり,自分の考えを確かなものにしたり,選択したりを繰り返す。この繰り返しが,探究の連鎖の中で起こっていることが見られた。さらに,子供が自分の向き合う時間,外への協働を求めるタイミングは,その子の探究の連鎖のさせ方によって異なることも見えてきた。

 

(3)単元を通して見方・考え方を深化させ,洗練することにつなげる

音楽科では,題材(他教科の単元)を通して「音の重なり」という見方・考え方をつなぎ,深化させることで,「『こぐまの二月』にあった低音楽器の音が,『エンターテイナー』でも聞こえたよ!この曲でも音楽を支えてるんだね」という音楽のよさを感じる姿があった。

社会科では,鎌倉や室町時代の社会や文化を窓口にして,社会を作り出す主体が,身分の高い人々から庶民へ移ってきたことを捉えるとき,子供たちは,現在の法律やルール,憲法と比べながら当時の社会の様子に迫る姿が見られた。本単元の探究の中で,実社会を問い直す見方・考え方を深化させた。

算数科では,実生活に結び付けた帰納的・演繹的・類推的な見方・考え方を働かせ,最終的には統合的な見方・考え方で「つまり・・・」とまとめていく姿が見られた。統合的な見方・考え方をすることによって,「ティッシュの中にも長方形があるよ。だって同じ辺の長さが2つあって角が直角だ」と,深化させた見方・考え方が実生活でも汎用できた。

理科では,実験によって証明された誰しもが納得のいく法則を粒子的な見方で説明することによって,現象をより科学捉え,「お風呂の部屋の戸を明けたら,温められた空気がもあっと出てくる」と,生活場面に汎用する姿が見られた。

体育科では,「膝を伸ばす倒立などは今までの倒立や側方倒立回転と同じ」と,前単元の気付きを本単元に結び付ける子供の姿があった。学び方の蓄積を洗練することで,子供たちが自らの手で汎用化させた姿である。

このように,子供たちが探究を連鎖させて知や美や価値を深化させたり,見方・考え方を洗練して汎用化したりする姿が,本年度の研究から明らかになりつつある。そこには,教科の本質であるその教科ならではの見方・考え方が確実に働いていること,さらには,単元と単元に共通する見方・考え方があることも確認できた。

 

.昨年度の研究から

1.教科の本質「教科固有の知識・技能を統合,包括する主要な概念」の整理

昨年度の研究より,真の探究の姿の一つである「子供たちが探究を連鎖させて知識・価値・美を深化させる姿」から、その深化をさせる方法について整理がされつつある。しかし,真の探究の姿のもう一つである「教科固有の見方・考え方が洗練され,汎用的に使えるようになる姿」については,単元の具体的な教科固有の見方・考え方が描けていなかったため,授業実践の中でその姿が見えずらかった。各単元の教科ならではの見方・考え方を整理し、授業実践することによって,単元内のつながりはもちろんのこと,別単元との縦・横のつながりが見えてくると考える。子供が生み出す探究の連鎖を,単元同士がつながるより長い時間軸で見てカリキュラムを編成することで,教科ならではの見方・考え方を自覚して働かせ,未来を切り拓く資質・能力がより深化・洗練できると考える。

 

2.子供が主体的に探究の連鎖を創り出す

昨年度の研究より,第1学年から子供が探究の連鎖を生み出すことが確認できた。また,子供が生み出す探究の連鎖だからこそ,自己とどっぷり向き合う時間と,自分の外へ求めて協働するタイミングや,そこにかける時間には違いが生まれることも見えてきた。子供が主体となって探究の連鎖を生み出し,子供と創り出す授業について,さらに研究を進める。

 

3.子供が自覚して見方・考え方を働かせる

探究の過程で,どんな見方・考え方を働かせているのかを子供が自覚し,自発的に働かせられるようになることが,未来を自ら切り拓いていくためには重要な資質・能力の一つとなると考える。小学校教育の中で,その学年や教科に合った自覚の仕方,働かせ方を考える。

 

Ⅳ.今年度の取り組み

1.昨年度の課題の整理

昨年度の課題を整理すると以下の2点になる。

1.教科の本質である見方・考え方の整理をする必要性がある。

2.子供が主体となって創り出す探究の連鎖の過程における、子供たちが教科ならではの見方・考え方を働かせている姿の明確化。

 

2.今年度研究の方法

(1)「教科の本質」である見方・考え方の2つの視点

①「知識・価値・創造物を深化させる教科ならではの方法」(深化させる方法)

知識・価値・創造物を深化させるための方法は様々ある。しかし,各教科等の取り扱う対象や領域へ,子供たちがその教科ならではのアプローチをすることによって,その教科固有の知識・価値・創造物を深化させることができる。その方法を「知識・価値・創造物を深化させる教科ならではの方法」(以下:深化させる方法)と呼ぶこととする。

 

②「教科固有の知識・技能を統合,包括する主要な概念」(主要な概念)

子供たちが未知の問題事象に対峙したとき,多くの知識をただ覚えているだけでは,関係する表面的な事柄を羅列するだけになり,問題解決に結びつけることは難しい。知識を関係のある順に並べていくのではなく,その問題解決に適したものを子供たちが選び,問題解決に適した形へとしていく必要がある。その際,子供たちが要素と要素の関係を整理し,構造化する拠り所となり,働かせるものを「教科固有の知識・技能を統合,包括する主要な概念」(以下:主要な概念)とする。

 

(2)具体的な研究方法

単元ごとに教科ならではの見方・考え方を「深化させる方法」と「主要な概念」の2つの視点で描き(仮説),子供の姿から単元ごとの「深化させる方法」「主要な概念」を明らかにして(検証)、その系統性を整理する(再構築)ことで、真の探究を探る。

 

①【単元ごとの見方・考え方の整理(仮説)】

各単元で働かせる具体的な見方・考え方を「深化させる方法」「主要な概念」でカリキュラム表に整理する。

②【授業実践】

授業で、「深化させる方法」「主要な概念」を働かせながら子供が主体となって探究する真の探究の姿の具体化する。

③【実践で見られた子供の姿から検証】

子供主体の探究の連鎖の中で見られた子供の姿から、その単元で育む「深化させる方法」「主要な概念」を検証する。

④【具体的な見方・考え方の再構築】

協議で明らかになったことに基づいて,再度,単元内の「深化させる方法」「主要な概念」を整理し,系統性を見いだす。

⑤以降②~をくり返す。

 

3.今年度研究仮説

今年度の研究仮説を以下のように設定する。

教科の本質である見方・考え方を深化させる方法と主要な概念で具体的に整理し,子供自ら教科ならではの見方・考え方を働かせる授業をデザインすることで,見方・考え方,およびその系統性がより確かとなり,未来を切り拓くために必要な「真の探究」が明らかになるのではないか。

 

4.今年度研究の副題

~教科ならではの見方・考え方の系統性 ~