基調講演:講演者のご紹介
今回、1日目午後の基調講演をお願いしました中原淳(なかはらじゅん)先生についてご紹介します。
先生は現在、東京大学・大学総合教育研究センターの准教授でおられます。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科より博士(人間科学)の学位を取得されました。文部科学省メディア教育開発センター(現・放送大学)助手、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て2006 年より現職に就いておられます。専門は経営学習論(Management Learning)で、「大人の学びを科学する」をテーマにして、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究を進めておられます。また同時に、実際に社会で働く方々を対象とした、働く大人の学びに関する公開研究会である Learning barを含め各種のワークショップのプロデュースもおこなっておられ、社会と大学のつながりを重視した実践的な研究も行っています。近年のキャリア教育と関連したご活動については、「大学生研究フォーラム 2011 現代大学生の学びとキャリアをデータと実践を架橋して理解する(京都大学・東京大学・電通育英会共催)」のシンポジウムにおけるファシリテーター等があげられます。そこでは中原先生のファシリテーションのもと、300名を超える参加者にも関わらすシンポジウムの中でグループワークが実施され、参加者による交流・情報交換が行われました。著書は「職場学習論(単著)」(東京大学出版会)、「知がめぐり、人がつながる場のデザイン(単著)」(英治出版)など多数に上ります。研究の詳細は、 Blog :NAKAHARA-LAB.NET (http://www.nakahara-lab.net/)を参照してください。ここでは、中原先生の経歴や研究業績だけではなく、先生がこれまでに関わってきた研究プロジェクトの概要や過去に企画されたワークショップなどの映像も閲覧することができます。
【ご講演の概要】
演題:企業人材育成研究のフロンティア:経営学習論の黎明
主旨:1980年代後半、バブル景気に沸き立った日本は、それからわずか数年後に、いわゆる「谷底」を這うような未曾有の経済失速を経験した。このプロセスにおいて、企業は、経営を立て直すため戦後確立した様々な日本型雇用慣行を見直すに至る。この雇用慣行見直しと同時に進行したのが、職場の人材育成機能の機能不全である。2000年代に入り、企業では機能不全に陥った組織内の人材育成を見直す動きが生まれ始めた。その際に、学問的裏打ちを提供してきたのが、経営学習論(Management Learning)とよばれる学際的研究領域の諸知見である。本基調講演では、近年の企業人材育成研究を紹介しつつ、現在企業内において進行している人材育成施策について解説する。
※なお中原先生には続いて行われるシンポジウムにも指定討論者として登壇いただくことになっています。
※画像は株式会社 Trinityによるものを、中原先生の研究室の承諾を得て使用させていただいています。
準備委員会企画シンポジウム:企画趣旨
日本のキャリア教育は、「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」(2004年1月)に基づいて実質的にスタートしました。それから7年が経過して、2011年1月に中教審答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」が発表され、キャリア教育の新たな方向性が示されました。「勤労観、職業観」を育むことに加え、「4領域8能力」に代えて社会的・職業的自立に必要とされる「基礎的・汎用的能力」が提示されたことです。これは2004年の報告書以来、「勤労観、職業観を育てる教育」という一面があまりにも強調され過ぎたことによります。また2011年の答申では、初等中等教育から高等教育までを含めてキャリア教育が議論されたことや、職業教育とキャリア教育のあり方が合わせて議論されたことも新しい動きといえます。
しかしながら、教育実践の場において、キャリア教育はその意義も含めて十分な理解が得られておらず、必ずしも浸透していない感があります。いまいちど原点に立ち返り、「学校から社会への接続」すなわち「学校と職業の接続」を問い直し、社会的・職業的自立のためのキャリア教育とは何かを整理する必要があるのではないでしょうか。確かに、職場体験活動やインターンシップ、大学でのキャリア形成支援といった取り組みは定着してきましたが、その成果やさらなる課題はどんなことなのでしょうか。学術的な水準を保ちつつ、実践に携わるすべての人々から理解と共感が得られるキャリア教育のあり方を示すことは、本学会の使命ともいえると思います。
そこで、今大会の基調講演ならびにシンポジウムでは、「接続」先である「社会」や「職業」を意識しながら、「高校から」「大学から」「理論的な観点から」と多方面のお立場から話題提供していただき、社会的・職業的自立を促す発達的支援とはどのようなものなのか、キャリア教育に理論的・実践的な立場から関わる方たちが年に一度集う研究大会の場において、改めて考えてみたいと思います。
話題提供者は以下の方々です(登壇予定順)。
松下眞治先生(大阪府・生野工業高等学校)
有山篤利先生(滋賀県・聖泉大学)
吉本圭一先生(九州大学)
★予稿集原稿はこちらから読めます。
【参考】中教審答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」
※上記の画像にあります冊子体のものはすでに絶版とのことです。
2日目午後のシンポジウムについて
2日目午後には、3:15から2つのシンポジウムが開かれます。ここでは、その内容についてご紹介します。
<1> 研究推進委員会企画 学会誌編集委員会共同シンポジウム
キャリア教育に関する研究において実践と理論をつなぐ
−実践論文に求められるものは何か−
企画趣旨
研究推進委員会では、「名称変更後の学会の研究・実践の在り方−学会員アンケート調査結果をもとに−」をテーマに2011年の第33回研究大会でシンポジウムを企画・開催しました。同シンポジウムでは、実践に取り組んでいる学会員の学会誌への投稿が推奨されました。これをもとに、キャリア教育研究の活性化を図るため第1回の研修会を2012年9月9日に開催し、テーマ「実践者が学会誌に投稿するには〜実践と理論の融合の視点で〜」をもとにシンポジウムをおこないました。そこでは、キャリア教育研究における理論と実践の融合について、学会誌への投稿との視点で議論がなされました。こうした議論をもとに、今回は、現場の実践から得た知見を学会誌の論文として投稿するためには何が求められるのかについて、学会誌編集委員会委員、研究推進委員、学会誌に論文を掲載した実践者、今後学会誌に論文を投稿しようと考えている実践者の方々をシンポジストに迎え議論していきたいと考えております。
前回同様、実践者とは、キャリア教育に携わる教師をはじめとする学校教育関係者、労働行政、NPOなど教育的、職業的自立に携わる方々を含め広範囲に捉えております。実践の論文化を考えている方は是非ご参加ください。
話題提供者(以下、敬称略)
川ア友嗣(関西大学、学会誌編集委員長)
下村英雄(労働政策研究・研修機構、研究推進委員)
宮田延実(名古屋市立福春小学校)
二俣潤也(聖パウロ学園高等学校)
小境幸子(埼玉県立岩槻商業高等学校)
司会・企画
三村隆男(早稲田大学、研究推進委員長)
★予稿集原稿はこちらから読めます。
<2> 会員企画シンポジウム
キャリア教育は生徒・学生に何をもたらす(もたらした)のか
企画趣旨
平成11年12月の中教審答申「今後の初等中等教育と高等教育との接続の改善について」で、キャリア教育の推進が提唱されて、12年が経過しました。この答申を受けて、平成13年8月に「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進に関する調査研究会議」が国立教育研究所に、また、平成14年10月に「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議(以下、協力者会議)」が文部科学省に設けられました。
2つの調査研究を受けて、9年前に「新キャリア教育プラン推進事業」が、8年前に5日間以上の職場体験を実施する「キャリア教育実践プロジェクト〜キャリア・スタート・ウィーク」が始まり、教育現場で本格的な実践が行われるようになりました。そして、平成23年1月の中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」では、教育界から産業界へと生涯にわたる円滑なキャリア発達を目指したキャリア教育の必要性が示されました。さらに幼児教育から義務教育、高等教育にいたるまでに体系的な教育の改善・充実を図ることが強調されました。
そこで、本シンポジウムでは、学校での実践が本格的に始まって、8年が経過した今、生徒・学生にどのような変化が見られているのでしょうか。小学校でも職場見学や社会人講話などが行われ、それら啓発的経験を活用して生き方を考えさせる学習活動が展開され始めているなか、その後、上級の学校に入学してくる生徒・学生にはどのような変化が見られるのか、キャリア教育を担ってきた教師やカウンセラーの意識や児童・生徒・学生の姿から、キャリア教育の成果と課題について検討します。また、成果と課題を踏まえ、キャリア教育は何をもたらすのか、今後の方向性を探りたいと思います。
話題提供者(以下、敬称略)
海藤美鈴(東京都江東区立毛利小学校)
山田智之(東京都町田市立町田第一中学校)
松下眞治(大阪市立生野工業高等学校)
番田清美(東京学芸大学 学生キャリア支援センター)
指定討論者
野々村新(前日本大学法学部教授)
司会・企画
田村和弘(三条市立第三中学校)
★予稿集原稿はこちらから読めます。