<動物行動の紹介> <担当教員の開講科目の紹介>
◆バイオシステムゼミは生態学的なシステムを扱います.
 システム(system)とは、複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮する要素の集合体のことです。日本語では組織や制度、系などと訳され、例えば、社会組織や縄張り制、生態系などがシステムです。ここで要素を動物の個体と考えれば、個々がバラバラに生活するよりも、まとまりを持って生活した方が各個体の生存や繁殖が有利になる場合が存在し、このような場合をシステムと見なします。例えば、アユを1個体だけ観察していてもわからないことがあります。川の瀬と淵を含めた広い場所において、個体間の関係性にも注目しながら1個体ずつ何個体も観察すると、アユの縄張り制が見えてきます。アユの縄張り制では、体の大きい個体が餌の多い「瀬」で縄張りを持ち、体の小さい個体は闘争を避けて「淵」で群れを作ります。縄張り個体が1個体消失すると、最終的には群れの中から縄張り個体が現れます。弱い個体は群れを形成することによって利益を得ているが、チャンスがあれば縄張り個体となってより生存や繁殖に有利な生活を送ろうとします。このように、アユの生態をシステムとして観察するとより深く理解できるわけです。要するに、野外において、個体だけでなく、個体間の関係性と周辺の環境を観察することにより、全体の中での各個体の位置づけや振る舞い、さらには全体の特徴などを考えることができるようになります。 
◆一般的な学問体系の中での「バイオシステム」の位置付けは?
 バイオシステムにはミクロな生物学の分野があり、そちらの方が有名ですが、「バイオシステムゼミ」はマクロな生物学の分野、具体的には、行動生態学や動物行動学の分野を扱います。動物に限らず、生物の適応戦略を研究する行動生態学です。昔は生物学を動物学と植物学など対象によって呼び分けていましたが、学問が細分化されると、ミクロな生物学とマクロな生物学に分けて考えるようになっています。ミクロな生物学とは、個体や細胞の中を扱う分野で、生理学や分子生物学、ゲノムサイエンスなどのことです。一方、マクロな生物学とは、個体よりも大きな空間スケールを扱う分野で、生態学や進化生物学、動物行動学、保全生態学などのことです。「バイオシステムゼミ」では野生の動植物に見られる機能的なシステムを野外で観察することを特徴としています。
◆バイオシステムは考察しなければ見えてこない!?
 生物界のシステムは、コンピュータ・システムのように誰かが目的を持って設計したものではありません。どのように設計されているのかを理解するのではなく、観察データや既存の知識(文献による情報)を集めて考察し、「このようなシステムになっているのであろう」と結論づけるような性質のものです。例えば、「生態系」はタンパク質のように特定したり、抽出したり、結晶化したり、合成できるようなものではなく、システム(エコシステム)として見ることにより、個々の種の役割や種間の相互作用、生態的な地位などが深く理解できるようになるわけです。もう少し詳しく言えば、まず既存の知識に基づいて、「このようなシステムになっているのではないか」と仮説を立て、その仮説を観察や実験によって確かめていきます。この仮説を立案する時に検証可能な仮説をたてなければならず、いろいろと試行錯誤を繰り返したり、想像によってシミュレーションを行うことになります。また、検証可能な仮説を立てて観察を行ってもうまく検証できないこともあり、最初に想定したシステムが間違いであり、修正版を用意することが必要になることもよくあります。このように、自然界をシステムとして見ることは、結局、「情報収集」と「データ分析」「考察」を繰り返すことになり、結果的に、自分の頭で考える「思考の練習」としてかなり有効な方法にもなっています。
◆生態学的なシステムの観察から生物学の面白さを実感しよう!
 よく生物学は暗記科目などと言われますが、身近な自然から生物学的な現象を自分の目で見つけることができるようになると、非常に興味深い科目になると思います。例えば、バイオームや遷移、陰生植物などの言葉を暗記しただけでは、滋賀大学教育学部周辺のバイオームが照葉樹林であるのにその基礎となる常緑広葉樹林は神社仏閣の周辺にしか残存していないことや、雑木林でも陰生植物が次のステージを狙って競争していること、逆説的ですが、草刈りによって雑草天国が誕生していることなどについて、一生気づくことがないかもしれません。是非、生態学的なシステムを自分で観察し、生物学の面白さを実感してください。
 ◆「考察」のプロセスも内在させた野外観察教材を開発しよう!
 教育学部は、理学部生物学科のような最先端の生物学的研究を行う組織ではありませんので、野外観察の面白さと有効性を実感した上で野外観察教材を開発してみましょう。フィールドワークでは、最先端の完成された分析装置等を使用しないため、かえって試行錯誤や創意工夫が不可欠です。将来教員になった時に役立つような「情報収集力」「情報分析力」「仮説検証型の問題発見力」などの「自分の頭で考える力」を磨いていきましょう。例えば、教科書に載っているような生態分野の事柄について、実際に野外で観察することにより、何をどのように見ていけば教科書に載った事柄が理解できるのかを経験し、その経験に基づいて野外観察教材を開発していきましょう。先端的な研究を行うと言うよりも、思考のツール、ここでは、動物行動学や行動生態学の思考ツールを使うことにより、生物学を暗記科目と言わせないような野外観察学習の教材化を目指します。 
◆情報教育とバイオシステム
 担当教員は、長年、情報教育課程に所属していましたので、情報教育にも力をいれています。バイオシステムゼミでは、身近な自然から情報を集めますが、この情報収集の段階で、ICTを活用します。また、画像データの加工や蓄積、管理などの手法も身につけ、情報発信と情報倫理についても学んでいきます。
 場合によってはドローンを用いた空撮を行い、生息環境の違いを上空から観察する予定です。左の画像はドローンを使って琵琶湖湖岸の水草帯の縁を上空10mから撮影したものです。これくらいの距離まではドローンの影響は無いようで、雌雄や種類がわかる画像を得ることができます。ドローン空撮にはICTの知識が不可欠ですが、うまく撮影できるようになると達成感が大きいと思います。
 いずれにせよ、調査を企画(Plan)し、実際に情報を収集し(Do)、調査の過程で作業状況の評価(Check)を行い、さらに、データ解析の結果を考察し、必要に応じて調査計画の修正(Action)を行います。この流れは、「PDCAサイクル」と呼ばれていますが、この汎用性の高い行動プロセスの利点を実感することは、情報教育の中で非常に重視していた事柄です。
 (2022年8月改訂)
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