進路未決定の心理学
私たちは、受験や就職に際して、進路意思決定と呼ばれる行動を行っています。しかしそれは、あまりにも重大な人生の選択なので、難しい決断を要します。それだけに、「なかなか決められない」と悩む人が多いようです。これは、進路選択の心理学では「進路未決定(career indecision)研究」と呼ばれています。この研究テーマは、私が学部の3年生のときから(もう30年!)関心を持ち続けているもので、2009年にはそれで博士(教育学)の学位を取得し、2012年にはそれにその後の研究を加えたものを風間書房から上梓しました。
(論文例)
若松養亮 2001 大学生の進路未決定者が抱える困難さについて:教員養成学部の学生を対象に〜 教育心理学研究 第49巻2号 pp.209-218.
若松養亮 2005 教員養成学部生における進路意思決定の遅延 −3回生11月時点で未決定の学生を対象に− 滋賀大学教育学部紀要(教育科学) 54, pp.77-86.
若松養亮 2005 教員養成学部の進路未決定者が有する困難さの特質−類型化と教職志望による差異の分析を通して− 青年心理学研究 第17号 pp.43-56. ※この論文によせられた意見論文と、それに対する私からのリプライが、同誌・第18号に掲載されました。
若松養亮 2009 大学生の職業・進路未決定の教育心理学的研究 −一般学生における意思決定遅延の解明− 博士学位論文(東北大学)
若松養亮 2012 大学生におけるキャリア選択の遅延−そのメカニズムと支援− 風間書房
若松養亮 2013 志望進路への適合性の評価観点と進路未決定−文科系大学生を対象として− キャリア教育研究, 32, 21-29.
教職選択の心理学
私が所属する教員養成学部では、教員養成課程に入学してきても、教員を目指さない人、目指さなくなる人が少なからず存在します。これはどうしてなのでしょう。また、当初は目指さなくとも在学途中で目指すようになる人たちもいます。同じような授業を受けながら、このように選択の結果が異なる背景には、どんな経験や考え方の違いがあるのでしょう。この課題は、教員養成学部の将来にもかかわる重大なテーマです。近年、論文の形にはしていませんが、継続的にデータをとっていますので、近々まとめる予定です。
(論文例)
若松養亮・古川津世志 1997 教員養成学部学生における教職志望意識の変化に及ぼす要因の検討 進路指導研究第17巻第2号 pp.19-29.22.
若松養亮 1998 教員養成学部学生における教職志望意識の変化に及ぼす要因の検討(2) −教職に対する「気がかり」と「魅力」の認知を中心として− 進路指導研究第18巻第1号 pp.1-8.24.
若松養亮 2012 教員養成学部生における教職志望意識の変動要因 滋賀大学教育学部紀要(教育科学), 62, 87-97.
若松養亮 2013 教員養成学部生における教職の選択・棄却に伴う阻害的要素への対処 滋賀大学教育学部紀要(教育科学), 63, 139-153.
職業体験学習の心理学
身近なところでは教育実習も職場体験の一環ですが、近年はほとんどすべての公立中学生が5日間近くの職場体験学習を行っています。職業の世界に実際にふれて体験することは、子ども・若者の進路意識に少なからず影響を与えるようです。日頃の見慣れた学校生活を離れて、「プロ」が働く厳しい現場を見て、また体験することは、子ども・若者の生き方にビビッドなインパクトを与えるものです。
(論文例)
若松養亮 1991 教職への適合感および志望度と教育実習経験との関連について −幼児教育系の短大生を対象として− 進路指導研究第12号 pp.19-26.
若松養亮 2011 中学生の職場体験学習における社会観および生活観の変化−肯定的な予期および体験の多少と関連づけて− 日本教育心理学会第53回総会論文集 p.16.
職場適応の心理学
進路を選んでそこに進むと、まずそこに適応するという過程が必要です。これは初期適応・組織社会化という一連の研究が、職業心理学の領域では数多くなされています。特に文系の学部を卒業した人が、その後にどのような過程を辿って適応に向かうのか、それを妨げる要因はどのようなものかに興味があります。このごろはデータを取るところまでいっていませんが、かつては教育心理学科を卒業した7学年にわたる人たちを追跡し、考察を加えました。
(論文例).
若松養亮 1993 大学生の進路意思決定の評価的研究〜卒業生の追跡調査を通して〜 進路指導研究第14号 pp.27-35.
若松養亮 1995 大卒就職者の初期適応過程に関する要因探索的研究 東北大学教育学部研究年報 第43集, 193-208.
若松養亮 1995 大卒就職者の初期適応過程の研究−進路指導及び就職後の教育・研修・処遇の課題を検討しながら−悠峰職業科学研究所紀要 第3巻, 40-47.
子どもの将来や職業の認知
現代の日本の子どもは、職業に対する興味や知識が乏しいと言われています。しかし、それを系統的なデータで示した研究は意外にも少なく、随分昔になされたものしかありません。しかし職業は、IT関係のものが代表ですが、時代とともにどんどん移り変わっていきます。そこで、日本労働研究機構の方々や東北大の教育心理学研究室出身の人たちとともに、非常に大がかりな研究を行いました。424もの職業名に対して、「どんな仕事かわからないものはどれか」「どんな仕事か知りたいものはどれか」「やってみたいものはどれか」といったことを、小・中・高校生を対象に調べました。またそれに関連して、現在の学習がどのように役立つものかという認知と、学習意欲が強く関連づいていることを示した論文もここの範疇に入ります。
(論文例)
下村英雄・高綱睦美・吉中淳・若松養亮・石井徹(執筆順) 2001 中学生・高校生の職業認知 日本労働研究機構刊 資料シリーズNo.112
吉中淳・石井徹・下村英雄・高綱睦美・若松養亮 2003 中学生・高校生の職業知識の広がりと職業関心に関する研究 進路指導研究 第22巻1号, pp.1-12.
非正規就労について
現代の日本では、派遣労働法の改悪の影響で、非正規雇用の若者がたいへん多くなっています。ただし制度や雇用情勢の問題だけでなく、就労に対する若者の意識も少なからず関連していると言われています。若者の非正規就労、すなわちフリーターの問題について、2005年から3年間、大阪教育大学の白井利明先生の科学研究費グループに参加させていただき、その成果がいくつか得られました。
(論文例)
下村英雄・白井利明・川崎友嗣・若松養亮・安達智子 2008 フリーターのキャリア自立−時間的展望の視点によるキャリア発達理論の再構築に向けて− 青年心理学研究 第19号, 1-19.
白井利明・下村英雄・川崎友嗣・若松養亮・安達智子 2009 フリーターの心理学 世界思想社
心理学研究の方法論について
心は目に見えません。したがって、研究を重ねても「絶対にこの結論が正しい」と言い切ることは難しく、むしろ研究の方法論についても飽くなき追究が必要だと考えます。研究会や学会で他の人の発表を聞くと、その内容についてももちろん議論や質疑をしますが、私は方法論自体についての議論も大好きです。青年心理学会(当時は研究会)で、一度、話題提供をしたものを原稿にまとめさせていただいたり、「青年心理学研究」に掲載された論文に意見論文を投稿したりしています。
(論文例)
若松養亮 1994 大量調査式相関研究に感じる“もどかしさ”とその対策への試論 青年心理学研究第6号 pp.84-88.
若松養亮 1997 大野論文(第8号掲載)を読んで 青年心理学研究第9号 pp.61-65.