教育学部 加納圭教授の編著書『Traditional Knowledge for Green Innovation with Japanese Persimmon Tannin, Kakishibu』(柿渋を活用したグリーンイノベーションのための伝統知識)が、Springer Natureより出版されました。
本書は、日本の伝統素材「柿渋」を題材に、持続可能な社会の実現に向けたグリーンイノベーションについて国際的な視点からまとめたものです。
詳細は以下のとおりです。
1000年以上の歴史ある伝統素材「柿渋」が、
脱プラスチック、脱石油・ナフサ、脱使い捨ての未来を拓く
生分解性で石油を使わない、プラスチック代替素材としてSDGs達成に貢献
Springer Natureより『Traditional Knowledge for Green Innovation with Japanese Persimmon Tannin, Kakishibu』(柿渋を活用したグリーンイノベーションのための伝統知識)刊行
渋柿から、脱石油の未来へ。1000年以上の歴史ある伝統素材「柿渋」が、石油化学プラスチック社会を問い直す。
研究、教育、専門領域において世界をリードする学術出版社の1つであるSpringer Nature(シュプリンガー・ネイチャー)より刊行されたオープンアクセス書籍『Traditional Knowledge for Green Innovation with Japanese Persimmon Tannin, Kakishibu』(柿渋を活用したグリーンイノベーションのための伝統知識)の出版をお知らせします。

本書は、日本で1000年以上にわたり使われてきたとされる伝統素材「柿渋」を、脱プラスチック、脱使い捨て、そして脱石油の時代におけるグリーンイノベーションとして捉え直す一冊です。
柿渋は、未熟な渋柿を砕き、果汁を搾り、発酵・熟成させてつくられる天然素材です。石油を使わず、化学合成工程を経ず、植物由来のカキタンニンを主成分としています。柿渋は多機能性の素材であり、防水、抗菌・抗ウイルス、防虫、防臭などの機能を有します。本書は柿渋の「プラスチック代替としての歴史と科学」に焦点を当てた初の書籍です。
現代社会は、ナフサをはじめとする石油化学原料から大量のプラスチックを生産し、短期間で使い捨てる仕組みに深く依存してきました。その結果、海洋プラスチックごみ、マイクロプラスチック、廃棄物処理、温室効果ガス排出、そして石油資源への依存という複合的な課題に直面しています。
柿渋は、プラスチックほど強く、軽く、安く、均質な素材ではありません。しかし、そこにこそ重要な問いがあります。すべての素材に石油化学プラスチックと同じ性能を求めるのではなく、用途に応じて自然素材を選び、手入れし、修理し、長く使う社会へ転換できないか。
柿渋は、紙、布、木材などの自然素材に、撥水、防臭、抗菌、抗ウイルス、防虫、防腐、耐久性向上といった多機能性を与えます。石油を使わず、発酵と熟成によって生まれ、廃棄後も自然環境と調和しやすい。柿渋は、単なるプラスチックの代替品ではなく、石油化学プラスチック社会そのものを問い直す素材です。
本書は、柿渋を「昔ながらの素材」としてだけではなく、脱プラスチック、脱使い捨て、脱石油を同時に考えるための、日本発の生分解性プラスチック代替素材として世界に発信します。
本書の特徴
1. 1000年以上続く日本の伝統知を、脱石油時代の素材として再評価
柿渋は、木材、竹、和紙、布、糸などに塗布・染色することで、防水、防腐、防虫、補強、耐久性向上などの機能を与え、日用品、建築、酒造、包装、衣類など幅広い用途で使われてきました。
本書は、こうした日本の伝統知を、現代の環境問題や資源問題に接続します。伝統文化の紹介だけに留まらず、石油由来素材に依存しない社会を考えるための実践的な知恵として、柿渋を位置づけています。
2. 生分解性で石油・ナフサを使わない、プラスチック代替素材としての可能性
柿渋は、渋柿という植物資源から生まれ、発酵と熟成によってつくられます。石油を使わず、自然素材に機能性を与えることで、石油・ナフサ由来プラスチックへの依存を減らす可能性を持っています。
本書では、柿渋を塗布した紙をプラスチック代替素材として活用する取り組み、高校生によるビジネス提案、柿渋を取り入れたSTEAM教育など、理論だけでなく実践事例も紹介されています。
3. 「弱くて多機能」な素材が、使い捨て社会を問い直す
柿渋は、石油化学プラスチックのように万能な素材ではありません。しかし、撥水、防臭、抗菌、抗ウイルス、防虫、防腐、耐久性向上といった多機能性を持ち、紙・布・木材といった自然素材を長く使えるものへと変える力があります。
これは、「強く、安く、短期間で使い捨てる」素材観から、「素材の特性を理解し、長く使い、循環させる」素材観への転換を促すものです。リデュース・リユース・リサイクル(3R)の推進に貢献します。
編者紹介
加納 圭
本書の主担当者。柿渋を、科学コミュニケーション・教育・グリーンイノベーションの視点から世界へ発信
本書の主担当者である加納圭氏は、滋賀大学教育学部教授であり、科学コミュニケーションの研究者です。生命科学の博士号を持ち、日本における科学コミュニケーションの実践・研究により、文部科学大臣表彰科学技術賞を2014年と2017年に受賞しています。また、オーストラリア国立大学 Australian National Centre for the Public Awareness of Science の客員フェローでもあります。
加納教授は本書を通じて、柿渋を単なる伝統素材ではなく、脱プラスチック・脱使い捨て・脱石油の時代における科学コミュニケーション、教育、責任あるイノベーションのテーマとして位置づけています。
本書では、第2章「Japanese Views of Nature: Relationships with Science, Technology, and Innovation, and Responsibility」を単著で執筆し、日本的自然観、科学技術、責任あるイノベーションの関係を論じています。また、第8章ではGraham Walker氏とともに、柿渋を題材にした日本・オーストラリアでのSTEM教育実践を紹介し、第9章ではSujatha Raman氏、Bangle Wu Bernice氏とともに、本書全体を踏まえたグリーンイノベーションの枠組みを提示しています。
Sujatha Raman
オーストラリア国立大学の科学技術社会論・科学コミュニケーション研究者。持続可能性と責任あるイノベーションの視点から本書を支える
共同編者のSujatha Raman氏は、オーストラリア国立大学 Australian National Centre for the Public Awareness of Science、通称CPASの教授・所長であり、UNESCO Chair in Science Communication for Public GoodのChair-holderです。Springerの紹介では、持続可能性と公正性の交差、科学とイノベーションをよりよい地球の未来にどう生かすかに関心を持つ学際的社会科学者です。
Dan Santos
オーストラリア国立大学の科学技術社会論・科学コミュニケーション研究者。新興技術、公共参加、オープンイノベーションの観点から参画
共同編者のDan Santos氏は、オーストラリア国立大学 CPASのResearch Fellowであり、UNESCO Chair in Science Communication for the Public Goodのもとで研究を行っています。Springerの紹介では、新興技術をめぐる政治経済的側面、公共参加、イノベーションに関心を持つ研究者です。
この3名の編者により、本書は、柿渋の歴史や科学を紹介するだけでなく、石油化学プラスチック社会をどう変えていくか、伝統知と科学技術をどのように結びつけるか、そして次世代にどのように伝えていくかを問う国際的な書籍となっています。
日本人著者らが示す、研究・産業・教育の最前線
本書には、柿渋をめぐる研究、製造、工業化、教育実践に取り組んできた日本人著者らが参加しています。1000年の伝統素材を未来のグリーンイノベーションへつなげる、多様な現場の知見が収められています。
後藤智一氏・三桝嘉嗣氏・三桝武男氏
創業150年以上の三桝嘉七商店が受け継ぎ、改良してきた柿渋
第3章「History of Kakishibu—Before and After the Plastic Era」を執筆した後藤智一氏、三桝嘉嗣氏、三桝武男氏は、創業150年以上の三桝嘉七商店で柿渋の製造・改良に携わってきました。
三桝嘉七商店は、長年にわたり柿渋の製造と用途開発を続けてきた老舗企業です。プラスチックの普及によって伝統的な柿渋需要が変化するなかでも、時代に合わせて用途を広げ、柿渋の可能性を守り、磨き続けてきました。
本章では、柿渋がプラスチック時代の前後でどのように使われ、どのように産業として継承されてきたのかが扱われています。伝統を守るだけでなく、現代の環境課題に応える素材へと柿渋を改良し続けてきた現場の知見は、本書の大きな柱の一つです。
松尾友明氏
カキタンニンの化学構造を世界で初めて決定した、柿渋科学の第一人者
本書第4章「Science of Kakishibu: Traditional Knowledge and Western Science and Technology」および第5章「Opening New Frontiers in the Kakishibu Industry Through Green Innovation」を執筆した松尾友明氏は、柿渋の主成分であるカキタンニンの科学的理解を切り拓いてきた研究者です。
松尾氏は、カキタンニンの化学構造式を世界で初めて決定した研究者として知られています。本書では、柿渋の物理的・化学的性質、柿タンニンの構造、石炭・石油由来プラスチックとの違い、そして天然高分子素材としての柿渋の可能性を解説しています。
柿渋は、単なる民間伝承の素材ではありません。松尾氏の研究は、1000年続く伝統素材を現代科学の言葉で説明し、産業素材として再評価するための基盤となっています。
後藤敏晴氏・横山優花氏・谷口聖太氏
マクセル株式会社で、柿渋の工業化に挑む
第7章「Industrial Challenge: How to Work with Traditional Knowledge for Commercialization」を執筆した後藤敏晴氏、横山優花氏、谷口聖太氏は、マクセル株式会社において、柿渋を用いた素材開発と工業化に取り組んできました。
同章では、伝統知である柿渋を、現代の企業研究開発や製造技術とどのように結びつけるかが扱われています。柿渋に改良を加え、紙などの自然素材に撥水性を持たせるコーティング技術として発展させ、工業化を目指す取り組みは、伝統素材を実際の産業技術へと橋渡しする重要な挑戦です。
柿渋が社会に広がるためには、伝統としての価値だけでなく、安定生産、品質管理、コスト、用途開発といった産業上の課題を乗り越える必要があります。マクセル株式会社での取り組みは、柿渋を「使える環境素材」へと近づける実践として注目されます。
松田俊彦氏
高校生による柿渋ビジネスコンテスト挑戦を指導
第6章「Socio-technical Experiments with Kakishibu: Student-Led Innovation with Businesses」を執筆した松田敏彦氏は、高校生たちが柿渋を活用したビジネスプランに取り組む実践を指導してきました。
高校生たちは、地域資源である柿渋を、脱プラスチック・脱石油時代の素材として捉え直し、紙袋、包装、農業資材、化粧品など、さまざまな応用可能性を検討してきました。ビジネスコンテストで勝ち上がる過程を通じて、柿渋は研究者や企業だけでなく、次世代の学びと社会変革をつなぐ教材にもなっています。
柿渋は、過去の素材であると同時に、未来を担う若い世代が環境問題や産業課題を考えるための入口でもあります。
各章の概要
第1章 Green Innovation and the Plastic Society
著者:Sujatha Raman, Dan Santos
プラスチック社会がもたらす地球規模の課題を背景に、グリーンイノベーションのあり方を問い直す導入章です。柿渋を、石油化学プラスチックに依存した社会を変えるための入口として位置づけています。
第2章 Japanese Views of Nature: Relationships with Science, Technology, and Innovation, and Responsibility
著者:Kei Kano
日本人の自然観、科学技術、責任あるイノベーションの関係を論じる章です。柿渋を事例として、日本の伝統知と西洋科学をどのように接続できるかを考察しています。
第3章 History of Kakishibu—Before and After the Plastic Era
著者:Tomokazu Goto, Yoshitsugu Mimasu, Takeo Mimasu
柿渋の歴史と産業的変遷を扱う章です。1000年以上続く柿渋の利用、プラスチック普及前後の変化、創業150年以上の三桝嘉七商店による継承と改良の歩みが示されています。
第4章 Science of Kakishibu: Traditional Knowledge and Western Science and Technology
著者:Tomoaki Matsuo
柿渋の科学を解説する章です。カキタンニンの構造、物理的・化学的性質、天然高分子素材としての特徴、石油由来プラスチックとの違いを扱います。
第5章 Opening New Frontiers in the Kakishibu Industry Through Green Innovation
著者:Tomoaki Matsuo
柿渋産業の新たな可能性を論じる章です。原料確保、製造、臭気、品質、用途開発などの課題に触れながら、柿渋を軸とする新しい産業展開を展望しています。
第6章 Socio-technical Experiments with Kakishibu: Student-Led Innovation with Businesses
著者:Toshihiko Matsuda
高校生による柿渋ビジネス提案を扱う章です。地域資源である柿渋を使い、企業や大学、行政と連携しながら、脱プラスチック・脱石油に向けたアイデアを社会に提案する教育実践が紹介されています。
第7章 Industrial Challenge: How to Work with Traditional Knowledge for Commercialization
著者:Toshiharu Goto, Yuka Yokoyama, Shota Taniguchi
マクセル株式会社における柿渋の商業化・工業化への挑戦を扱う章です。柿渋を改良し、撥水コーティングなどの用途へ展開し、中規模大量生産を目指す取り組みが示されています。
第8章 Effects of Culturally Relevant STEM Education: Children’s Eco-Friendly Invention Ideas Using Kakishibu in Japan and Australia
著者:Kei Kano, Graham Walker
柿渋を題材にしたSTEM教育の実践を扱う章です。日本とオーストラリアの子どもたちが、柿渋を使った環境配慮型の発明アイデアを考える教育プログラムを紹介しています。
第9章 Elements of a Green Innovation Framework: A Vision for Kakishibu in the Plastic Society and Beyond
著者:Sujatha Raman, Bangle Wu Bernice, Kei Kano
本書全体の議論をまとめ、柿渋を通じたグリーンイノベーションの枠組みを提示する章です。単なる技術開発にとどまらず、自然との関係、素材の使い方、修理しながら長く使う文化を含めた社会変革を展望しています。
編著者コメント
加納圭教授コメント
柿渋は、日本で長く暮らしや産業を支えてきた伝統素材ですが、現代の日本ではその存在を知らない人も少なくありません。しかし、プラスチックごみや石油由来素材への依存が世界的な課題となる今、柿渋は過去の素材ではなく、未来を考えるための重要な手がかりです。
柿渋は、プラスチックほど万能な素材ではありません。しかし、撥水、防臭、抗菌、抗ウイルスなどの多機能性を持ち、紙や布、木材などの自然素材を長く使えるものにできます。
本書を通じて、柿渋の歴史、科学、産業応用、教育実践を多くの方に知っていただき、脱プラスチック、脱使い捨て、そして脱石油に向けた暮らしとものづくりを考えるきっかけになれば幸いです。
書籍情報
| 書名 | Traditional Knowledge for Green Innovation with Japanese Persimmon Tannin, Kakishibu |
|---|---|
| 編者 | Kei Kano, Sujatha Raman, Dan Santos |
| 出版社 | Springer Singapore |
| 刊行年月日 | 2026年3月28日 |
| 形態 | Open Access Book |
| eBook ISBN | 978-981-95-7805-4 |
| Hardcover ISBN | 978-981-95-7804-7 |
| DOI | 10.1007/978-981-95-7805-4 |
| ページ数 | XIII, 232ページ |
| 主な分野 | Bioinspired Technologies, Biopolymers, Biomaterials, Food Science, Natural Products, Sustainability |
本書はオープンアクセスで公開されており、無料でダウンロードできます。
https://link.springer.com/book/10.1007/978-981-95-7805-4
なお、本書の出版にあたり、オープンアクセス費用の一部として滋賀大学の出版助成を受けています。
本件に関するお問い合わせ
担当:滋賀大学 教育学部 企画係
E-mail:kikaku@edu.shiga-u.ac.jp
TEL:077-537-7701
URL:https://www.edu.shiga-u.ac.jp/
